研究課題/領域番号 |
21K12457
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80020:観光学関連
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研究機関 | 國學院大學 (2022) 高崎経済大学 (2021) |
研究代表者 |
井門 隆夫 國學院大學, 観光まちづくり学部, 教授 (60619138)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 小規模宿泊業 / 労働生産性 / 資本と運営の分離 / エコロッジ / 所有と運営の分離 / 生産性向上 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、日本における小規模宿泊業において「資本(所有)と運営を分離」し、営業利益を生み持続可能となる経営モデルを調査で明らかにしていく。日本の小規模宿泊業の労働生産性が低い背景には、赤字法人と黒字個人でバランスを保つことを債務者と債権者である金融機関の双方が了解している状況がある。そのため、抜本的に労働生産性を向上するためには、経営者を個人保証から切り離し、海外で見られるような資本と運営分離形式へとシフトしていくことが望ましい。そうしたスキームにおいて、小規模宿泊業がどのように利益や価値を創出していくべきか、国内外の先行事例の経営者インタビューや参与観察調査で明らかにしたい。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本の小規模宿泊業の価値と、その価値を持続可能とするための新しい資本のあり方のスタンダードを学術的(経営学的)に示すことである。 これまでの小規模宿泊業は、家族経営が中心であった。小さな資本しか持たない家族経営者でも自己所有の不動産担保価値や「個人保証」をもとに大きな借入ができたことは地域雇用と経済循環を生み出し日本の地方経済の発展を支えたが、その過程で経営者の資産を増やし、万一の個人保証に備えるという「赤字法人と黒字個人で資本のバランスを保つ形態」が標準化した。しかし、個人の黒字の貯蓄状況は秘匿され明らかにできず、統計上は赤字法人の部分しか公にならないため、低い労働生産性が問題視されるようになった。 小規模宿泊業の労働生産性は1993年をピークに下がる一方で、資本の大きな宿泊業との差は広がるばかりであり、法人の債務超過も常態化している。一方で、通常融資を受けられ経営が存続できている点から推察できるのは、個人の貯蓄も増え続けているという実態である。つまり、小規模宿泊業の労働生産性を改善するためには、資本(過剰債務)と運営(収益)を切り離し判断しない限り抜本的な解決にはならない。 先進国の中で未だに日本の債権法に残る個人保証制度も廃止に向けた動きが生まれ始めているが、完全廃止を待つ以前に倒産ラッシュが来ないとも限らず、小規模宿泊業の労働生産性を向上するためには、経営者を個人保証から切り離し、資本と運営の分離形式へとシフトしていくことが経営上望まれる。 そこで本研究では、国内において小規模宿泊業の資本と運営を分離して経営する先行事例や、海外における資本と運営を分離した小規模宿泊業の事例研究を、経営者インタビューや文献調査にて明らかにしていく。学術的到達点としては、日本の小規模宿泊業における経営手法の転換可能性を明らかにし、市場に応用していくことを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度(21年度)では、統計データや先行研究調査のほか、国内における先行的な取り組みの視察及びインタビュー調査を行った。 代表事例としては、後継者がなく廃業が予見される温泉地において、代表的企業が中心となりまちづくり会社を組成し、将来に廃業が見込まれる法人をM&Aしていく計画の初期的な動向のリサーチを実施している。また、小規模宿泊業に対する投融資意向に関して、金融機関や投資ファンドにインタビューを行い、主要な課題を把握した。 研究2年目(22年度)においては、海外の小規模宿泊業の事例として、National Geographicが選定した63軒のユニークロッジリストを入手し、そのうち1社(ベトナムのTopas Ecolodge)について現地調査にて経営者インタビュー等の事例研究を実施した。その結果、資本と運営が分離していることはもとより、長期的資本が投資され、中長期的なロジックモデルに基づく社会課題の解決と収益性の両立が図られていることが明らかになった。また他の複数のロッジを文献調査したところ、同様の傾向が見られた。また、資本は外部資本、運営は地元の傾向があり、大規模宿泊業とは逆転現象が見られた。つまり、日本の小規模宿泊業と同じ家族運営である一方で、資本が外部資本となることにより、経営目標や手法が異質になる点が判明した。事例では、小規模宿泊業は外部資本の支援により、地域の社会課題解決による地域経済発展の拠点となっており、日本において応用可能なモデル構築を目指す学術的目標を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度(23年度)には、継続して国内の事例調査及び海外文献調査を行う。本研究の方向性として、小規模宿泊業の価値として、地域の産業の発展、文化の維持、行政コストの削減、流入人口の増加といった社会課題解決による地域の持続可能性に結びつく、多様な個性を持った業態であることと定義したい。その上で、社会資本による出資と地元家族による運営により、個人貯蓄や個人保証と切り離された社会企業としての存在意義を見出すことができる。 事例として、初年度に調査を行った島根県温泉津温泉の変化と資本構造・運営上の収益について経営者インタビュー調査を行う。また、2年目に調査を行った海外63軒のユニークロッジについて、経営の実態に関する文献探索と分析を進めたい。 これにより、本研究では、資本と運営を分離した経営体こそ、人口が減少し社会課題が山積する地域において、小規模宿泊業の価値創造と発展を導くという仮説の検証を行うものとしたい。
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