研究課題/領域番号 |
21K13198
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分05030:国際法学関連
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研究機関 | 立命館アジア太平洋大学 |
研究代表者 |
平野 実晴 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 准教授 (40839685)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 水紛争 / 水の安全保障 / 水のグローバル・ガバナンス / グローバル規制基準 / 国際司法裁判所 / 投資条約仲裁 / 水に対する人権 / 人権裁判所 / 国際法 / コンフリクト・マネジメント / 国際河川 / 河川流域機関 |
研究開始時の研究の概要 |
水をめぐる紛争=コンフリクトは様々な要因によって引き起こされている。それゆえ、国際法に基づく法的な紛争処理(dispute settlement)は、必ずしもコンフリクトの解決に結びつくとは限らない。そうした中、国際河川を共有する国々は、条約に基づき国際制度を設立することで、恒常的に水資源を管理してきた。このような国際制度は、法的拘束力を有さない様々な「ソフト」な手段を取り入れることで、国家間関係の悪化を予防し、対立を解決しようとしている。本研究は、近年の条約制度の設計および各制度で用いられる手段を分析することで、国際法が担うコンフリクト・マネジメントの作用を理論化することを試みる。
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研究実績の概要 |
これまで継続的に取り組んできたテーマである、水紛争を扱った投資条約仲裁判断例の検討の結果を国際学会で報告した。また、水に対する人権に関連する地域的人権裁判所や人権機関の判断例の検討を進めている。こうした裁判例の分析は、先行研究で提唱された「グローバル規制基準」を水紛争の事例に当てはめ、その意義を検証するとともに、水紛争の特質から見えてくる特徴的な「グローバル規制基準」の内容を浮かび上がらせることを目的としている。判例研究を踏まえつつ、こうした基準が裁判には至らない事案でどのような意義を有するのか、2024年度にかけて考察したいと考えている。 2023年度、新たに取り組んだテーマに、水の安全保障がある。水の安全保障化は、様々な政策的意図をもってなされるが、諸国家がどういった意味内容や効果を当概念に持たせようとしているのか、安全保障理事会における議論から明らかにし、関連する国際法制度の整理を行った(論文を『水資源・環境研究』に掲載)。さらに、具体的な事例研究として、ロシアによるウクライナ軍事侵攻が生じさせる環境破壊について、どのような責任追及が模索されているのか、関連する法実行を整理した(論文を『環境技術』に掲載)。このテーマは、持続可能な発展と安全保障の関係という大きな問題を扱うものであり、継続的に研究を進める意義があると考える。 以上のような実証的な研究を踏まえ、本プロジェクトの最終年度となる2024年度は、理論的な考察として、水の視角からグローバル・ガバナンスの構造を明らかにする作業にも力を入れていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度前期は、水をめぐる紛争=コンフリクトについて掘り下げるため、関連する概念である協力についても探求した。先行研究のレビューの一環で執筆した英語文献の書評が、Journal of Water Lawに掲載された。 また、従来から継続している投資条約仲裁判断の分析について、 "Bringing Water before Gold: Pathways for Future-proofing Investment Law" と題する報告を、8月初頭にフィンランドで開催されたThe 20th Annual Colloquium of the IUCN Academy of Environmental Lawで発表した。現地では、諸外国の研究者から有用なフィードバックを得ることができた。特に、分析枠組みとして「グローバル規制基準」に注目することについて肯定的な評価が多く、今後、投資仲裁以外の関連判例の分析へと研究を展開する意義を確認することができた。欧州人権裁判所の判例分析は、事例紹介を執筆し『人権判例報』から公表したが、他の事例との比較検討は次年度に持ち越した。 2023年度後期は、水の安全保障の概念を切り口に、研究を進めた。様々な政策的意図をもって諸外国が水の安全保障の概念に異なる意味内容を与えていることを安全保障理事会における議論から明らかにし、関連する国際法制度の整理を行った。この成果は、研究会で発表するとともに、『水資源・環境研究』に掲載の論文で公表している。具体的な事例として、ロシアによるウクライナ軍事侵攻が生じさせる環境破壊について、どのような責任追及が模索されているのか、実行を整理した論文を執筆し、まもなく『環境技術』から公表される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は本プロジェクトの最終年度であるが、新たに研究対象に取り入れた事例もあることから、前半は実証的な分析を進め、後半に理論的な検討に時間を割きたいと考えている。 ①水に対する人権に関する研究として、水に対する人権の適用が問題となった地域的人権裁判所の判例分析を通じて、裁判所が判断枠組みに取り入れている「グローバル規制基準」の内容を明らかにし、水紛争の処理を越えて、どういった予防・解決に派生する効果があるか考察する。②ALPS処理水の海洋放出をめぐる問題を事例として取り上げ、リスク管理にかかわる様々な国際基準に注目し、裁判所が作り出す「グローバル規制基準」との相違を考慮しながら、水をめぐる紛争の予防・解決に資する作用を考察する。本研究の成果は、9月末にライデン大学で、11月には上アルザス大学で報告する予定である。③流域ごとに策定されている条約制度の研究として、オレゴン州立大学の提供するTransboundary Freshwater Dispute Databaseを活用し、紛争解決手続の比較調査を進めるとともに、紛争の予防・解決に資するマネジメント的手法として特徴的な例を特定する。④武力紛争と水インフラ・水環境保護に関する研究を進める。これまで題材としたロシアによるウクライナ侵攻に加え、イスラエルによるガザ侵攻についても、研究を行う。 理論的な考察として、水の視角からグローバル・ガバナンスの構造を明らかにする。本プロジェクトを通じて得られた様々な実証的な研究成果からの帰納的な作業が中心とはなるが、法地理学や国際法に文化人類学アプローチを取り入れた先行研究も参照し、独自の方法論の精緻化を進める。
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