研究課題/領域番号 |
21K14747
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分37020:生物分子化学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岩崎 有紘 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (00754897)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | アクノライド / 海洋シアノバクテリア / 末端アルキン / ポリカバノシドE / 海洋天然物 / 熱帯病 / ウイルス / 官能基特異的物質精製法 / ケミカルスペース |
研究開始時の研究の概要 |
末端アルキンは、自然界において希少な官能基であり、これまでに知られている末端アルキンをもつ天然物の数は限られている。本研究の目的は、海洋生物の抽出物に対し、官能基特異的な物質精製法(直接的アルキン濃縮法)を駆使し、末端アルキン海洋天然物の網羅的な探索を行い、新たなケミカルスペースを開拓することである。さらに開拓した天然物群を基盤として、ケミカルバイオロジー分野へと研究を展開する。
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研究実績の概要 |
末端アルキンをもつ海洋天然物に注目し、構造と生物活性の多様性の解明を目的とする本研究において、今年度は以下に述べる実績をあげた。 (1)沖縄本島アクナ浜で採集したオケアニア属海洋シアノバクテリアより、末端アルキンを含有する新規マクロライド配糖体およびその類縁体を単離し、構造を決定した。アクノライドと名付けた本化合物群の平面構造は、NMRを中心とした従来法によって決定した。また、糖部の絶対立体配置はNMRと改良モッシャー法を組み合わせて決定した。一方、マクロライド部に存在する7か所の不斉点の立体化学の決定には、計算化学と統計解析を組み合わせた手法を当初は採用した。しかし本法によって支持された絶対立体配置では、実測のNOE相関に一か所説明できない部分があることが判明した。そこで有機合成的手法によって提唱立体配置の確認を行ったところ、計算化学による構造決定に誤りがあることが判明した。計算結果を精査したところ、分子内水素結合の過剰評価によって特定の配座の占有率が異常に高まっていたことが誤った絶対立体配置の推定につながったことが示唆された。そこで、分解反応とNMRデータ(結合定数とNOE相関)の詳細な解析を行い、本化合物の絶対立体配置を解明した。本化合物群の生物活性を評価した結果、HeLa細胞およびトリパノソーマ原虫の増殖には影響を与えないことが分かった。今後は異なる評価系を用いて有用な生物活性の探索を進めていく予定である。 (2)前述のシアノバクテリアより、既知のマクロライド配糖体ポリカバノシドの新規末端アルキン類縁体を発見した。既知類縁体との各種スペクトルデータの比較によって、本化合物の絶対立体配置を解明した。 (3)末端アルキン含有天然物を探索する過程で、5種の新規天然物を単離し、その構造と生物活性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
沖縄本島で採集した海洋シアノバクテリアから、末端アルキンを含有する新規天然物2種とその類縁体の発見に成功した。これらの成果は、海洋シアノバクテリアが末端アルキン含有化合物の探索源として有望であることを示すものである。またヒトがん細胞や病原原虫を用いた評価系では、これらの化合物の有用な生物活性を見出すことができなかった。これらの化合物のもつ生物活性について、さらなる評価を実施する予定である。 一方、昨年度の本研究において構築した海洋微生物の培養環境を利用した物質探索については、今年度は目立った成果をあげられていない。種々検討の結果、培地の組成や培養温度が物質生産に大きな影響を与えることがわかったため、今後はこれらの要素を中心に培養条件の検討を進める。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は次年度、中央大学理工学部に異動し、新たに研究室を主宰する予定である。したがって、まずは実験環境の整備に取り組む。その後は、以下の方針で研究を展開する。 (1)これまでの本研究を通じて、高い末端アルキン含有化合物生産能をもつことを明らかにしたユレモ科の海洋シアノバクテリアに注目し、さらなる新規天然物探索を進める。具体的には、充分な探索が行われていない南西諸島の離島(渡名喜島、波照間島など)沿岸部に生息する海洋シアノバクテリアの調査と採集を行う。 (2)より多様な骨格の末端アルキン海洋天然物の探索を進めるため、異なるソースからの物質探索を進める。具体的には、サンゴ礁のリーフ上に生息する海洋放線菌や糸状菌を対象とし、分離した菌株からの物質探索を進める。加えて、海運業者や漁業従事者の協力のもと、船体や漁網に付着する希少海洋生物の入手を計画している。 (3)本年度の研究で見出した2種の末端アルキン新規天然物は、がん細胞や病原原虫に対しては活性を示さなかった。そこで、まったく異なる生物に対する増殖阻害活性を評価する。具体的には、抗菌活性の評価や、研究協力者の協力のもと、抗ウイルス活性の評価(COVID-19、インフルエンザウイルス、エボラウイルス)を進めていく。
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