研究課題/領域番号 |
21K14760
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分38010:植物栄養学および土壌学関連
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
福留 光挙 香川大学, 農学部, 助教 (40882949)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 活性イオウ分子種 / 根粒共生 / 植物微生物間相互作用 / 硫黄代謝 / ミヤコグサ / 根粒菌 / 活性分子種 |
研究開始時の研究の概要 |
マメ科植物-根粒菌の根粒共生において、活性イオウ分子種(RSS)は、根粒菌の感染した細胞(感染細胞)に局在する。また、硫黄代謝遺伝子の変異したマメ科植物や根粒菌の着生根粒では、感染細胞のRSS量が少なく、窒素固定活性も低い。宿主植物と根粒菌は協調的な硫黄代謝を介して共生に必要なRSSを産生していると推定されるが、詳細は不明である。本研究は、根粒共生で産生されるRSSの分子同定および代謝経路の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
ミヤコグサと共生根粒菌の共生中に産生される活性イオウ分子種(RSS)の、分子構造および代謝メカニズムの解明を目指し、研究に取り組んだ。本年度は、RSS産生酵素の共生中の硫黄代謝とアミノ酸代謝への関与について主に検討した。RSS産生酵素として知られる、シスタチオニンγリアーゼ(CSE)、システイニルtRNA合成酵素(CARS)、3-メルカプトピルビン酸硫黄転移酵素(3MST)について、それぞれの遺伝子が変異した根粒菌を用いて、RSS産生量および、硫黄代謝産物量、アミノ酸代謝産物量の変化について検討した。 RSS特異的蛍光プローブで根粒切片を処理し根粒内のRSS量を比較した結果、CSE、CARS、3MSTのいずれの変異株が着生した根粒でも、野生型と比べ感染細胞での蛍光強度が弱く、RSS産生量の減少が確認された。サルファーインデックス解析による硫黄代謝産物量の測定では68化合物について解析し、28化合物が根粒から検出された。CSE、CARS、3MSTのいずれの変異株が着生した根粒でも、野生株と比べ複数の硫黄化合物量が変化していることを見出した。また同様に、複数のアミノ酸量も変化していた。これらの結果から、共生根粒菌のRSS産生酵素異常が、宿主植物との共生器官である根粒中でも、RSS産生および、硫黄・アミノ酸代謝に影響することが明らかとなった。変異株の着生根粒で含有量が変化した硫黄化合物の中には、いくつかのRSSも含まれていた。いずれのRSSも、野生株と比べ変異株の着生根粒で少なかった。特に、システインパースルフィドとグルタチオンパースルフィドの量の変化が顕著であり、根粒内で機能する具体的なRSSの特定が進展した。 本年度は、根粒菌のCSE、CARS、3MSTの変異が根粒共生に異常をもたらすことも確認した。いずれの変異株も根粒菌感染4週後以降に根粒の早期老化を示すことを見出した。今後は代謝異常と共生表現型の異常がどのように結びつくのか検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に、「活性イオウ分子種(RSS)の根粒共生での機能」と「RSS産生酵素の硫黄代謝とアミノ酸代謝への関与」の解明に取組んだ。具体的には、ミヤコグサの共生根粒菌であるMesorhizobium lotiのシスタチオニンγリアーゼ(CSE)、システイニルtRNA合成酵素(CARS)、3-メルカプトピルビン酸硫黄転移酵素(3MST)遺伝子の変異が根粒共生に及ぼす影響、および、RSSの産生に及ぼす影響について検討した。 いずれの変異根粒菌でも、着生根粒で窒素固定活性の低下を示し、共生に異常が生じた。また、いずれ変異根粒菌も根粒の早期老化を示した。宿主植物の生長異常も共生後期になるほど顕著に観察され、根粒菌のRSS産生酵素が根粒共生の安定性・長期化に寄与している可能性が示唆された。RSS特異的蛍光プローブの蛍光強度から感染細胞のRSS量を評価したところ、すべての変異株でRSS量の減少を示した。また、硫黄代謝産物やアミノ酸の網羅的解析により、CSE、CARS、3MSTの変異株が着生した根粒では、硫黄代謝産物やアミノ酸のプロファイルが野生型と異なっていること、さらに、主要なRSSであるパースルフィドおよびポリスルフィドの量が減少していることを見出した。硫黄代謝産物やRSSの変動パターンはCSE、CARS、3MSTの変異株でそれぞれ異なっており、複数の経路を介したRSSの産生が、共生成立に寄与している可能性を示した。現在はCSEの変異がRSS代謝に及ぼす影響についてこれまでの成果をまとめ、国際誌へ投稿している。 本年度は、昨年度得られた結果の再現性試験を主として実施したため、新規のデータ取得量は多くなかったものの、すべての実験結果について再現性を確認できた。したがって、「おおむね順調に進展している」と総評した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、前年度および本年度までに得られた結果をもとに、シスタチオニンγリアーゼ(CSE)、システイニルtRNA合成酵素(CARS)、3-メルカプトピルビン酸硫黄転移酵素(3MST)がそれぞれ、どのような活性イオウ分子種(RSS)のどの産生プロセスで必要とされるのかをまとめ、国際誌への投稿を目指す。 また、CSE、CARS、3MSTによる硫黄代謝経路のそれぞれの関係について独立性および協調性について検討する。根粒で共生根粒菌に硫黄源を供給するトランスポーターであるSst1遺伝子の変異ミヤコグサを用いて、「根粒における宿主植物の硫黄代謝経路」についても詳細に検討する。共生器官での硫黄代謝における「宿主植物に依存した代謝経路」を遺伝子発現および代謝産物から特定し、CSE、CARS、3MSTなどを介した「根粒菌の硫黄代謝経路」との関りについて検討する。「根粒菌の硫黄代謝経路の関係性」や「宿主植物-根粒菌間の硫黄代謝経路の関係性」についてもとりまとめ、国際誌への投稿を目指す。 次年度は、最終年度であるため、主に研究内容のアウトプットを中心とする。国際誌への投稿の他、多方面で学会発表を積極的に行いアウトリーチ活動に努める。
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