研究課題
若手研究
海洋生物は種に応じ、特異的な生物活性を示す化合物を生産する。中でも紅藻は、塩素や臭素などのハロゲン原子を有する低分子有機化合物を蓄積することで、外敵から身を守る化学防御機構を備えている。本研究では、この防御機構に着目し、『紅藻由来の含ハロゲン化合物は、防汚性を備えた環境対応型の防汚網となり得るか』という問いに対し、次の二点を解決する。(1)静岡県沿岸にて採集した紅藻類などから、汚損生物へ阻害活性を示す新しい候補化合物を見出すこと(2)候補化合物をハイドロゲル高分子材料に混ぜて、海洋環境にやさしい防汚網の試作品を開発すること本研究成果から、汚損生物に対する防汚網創製へ向けて重要な知見を得る。
最終年度には、これまで単離した紅藻、海洋軟体動物、苔類および植物由来の二次代謝産物の立体構造を明らかにした。そしてこれらの純化合物を用いて、イガイの足糸に対する着生阻害率を評価した。その結果、紅藻と軟体動物由来のテルペン類に顕著な活性が認められた。構造活性相関を検討したところ、ハロゲンや窒素原子の有無が活性に大きく関与している可能性が高いことが分かった。次に、環境対応型の新規防汚網の創出に向け、市販の網にハイドロゲル層を構築し、海産テルペンを内包させられるか否かを調べた。具体的には、網をPVAとpoly(MAAc)の溶液に浸漬し、乾燥後、熱架橋することで漁網上にハイドロゲル層を構築した。EDSを用いた元素分析の結果、ハイドロゲル層を有する漁網において化合物に由来するハロゲン原子の存在を観測できた。つまり、網へのハイドロゲル層の構築と薬剤の内包が可能であることを証明した。引き続き、開発した試作品の物理化学的な特性を調べ、耐久性の解析を進める。研究期間全体を通じて、研究開始時の目的はおおむね達成できた。しかし、研究開始直後に発生したコロナ禍での緊急事態宣言により、県内外で実施予定であった野外調査およびサンプル採集活動に遅れが生じた。これらの影響から、当初の目的の一つであった魚類疾病や寄生虫症に対する活性試験の進捗が遅くなった。一方、フジツボ類と比較して着生阻害活性試験の報告が限定的であったイガイ類の足糸に着目した着生阻害活性試験を確立できたことは大きな成果となった。課題点および候補化合物と類縁体の化学合成に取り組む研究は、次回のテーマとして継続・実施していく。
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