研究課題
若手研究
D型肝炎ウイルス(HDV)を含むデルタウイルスは、宿主機構の利用だけでは自身のウイルス生活環を再現できない。HDVのゲノムは全長;約1700塩基と小さく、1-2つしかウイルスタンパク質をコードしないにも関わらず、免疫応答から逃れ、宿主因子を利用し、他ウイルスタンパク質を獲得する。しかし、これら分子機序の多くは明らではない。本研究では HDVと宿主の相互作用の解析に加え、最近同定された新型デルタウイルスとの比較解析により、デルタウイルスの複製伝播機構を明らかにする。これにより、デルタウイルスが宿主および 他ウイルスを自身の複製伝播に利用する機構を明らかにできると期待する。
D型肝炎ウイルス (HDV)や、近年発見された類似ウイルスを含むデルタウイルスは自身のウイルスタンパク質のみでは感染性粒子を構築することが出来ないサテライトウイルスである。デルタウイルスは1-2つしかウイルスタンパク質をコードしていないが、他のウイルス (ヘルパーウイルス)のタンパク質機能をハイジャックし、感染性粒子を構築すると考えられている。本研究ではデルタウイルス複製増殖に寄与する宿主因子を同定し、その作用機序を解析する。遺伝子発現スクリーニングにより得た、HDVの感染複製を阻害するインターフェロン応答遺伝子 (ISG)はHDVに加えて、トリデルタウイルス (tgDeV)、ウッドチャックデルタウイルス (mmDeV)のウイルスRNAおよびウイルスタンパク質産生を低下させた。HDVはヒトに感染した際にISG発現を大きく誘導することが知られているが、本研究で同定したISGの発現はあまり誘導されないことがmRNA-seq解析により明らかとなった。これは選択的にHDVがISGの発現を抑制する可能性が考えられるため、今後ウイルスタンパク質とISGとの相互作用の解析を進める。デルタウイルスは複製増殖に臓器特異性をほとんど示さないが、tgDeVはヒト肝臓由来細胞株で複製増殖能が低く、トリ由来細胞株で高い複製増殖能を示す。tgDeVが感染性粒子を構築するためのヘルパーウイルスは同定されていないが、トリ肝臓由来細胞株にtgDeVゲノムを導入すると感染性粒子を産生した。今後の解析により、デルタウイルス感染性粒子構築の新しい機序の解明に繋がると期待する。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の研究成果として、ISGが阻害するデルタウイルス複製過程の解析を行い、ウイルスRNA産生を阻害する可能性が考えられた。また、tgDeVが感染性粒子を産生可能なトリ肝臓由来細胞株を得た。デルタウイルスのヘルパーウイルスとして機能するとして既に報告されているへパドナウイルスなどのウイルスタンパク質ゲノムはこの細胞株からは検出されていないため、この細胞株のmRNA-seq解析により、新しいヘルパーウイルスを報告できると期待する。
最終年度ではISGとウイルスタンパク質との相互作用を評価する。また新規に構築している動物由来の新しいデルタウイルスに対する抗ウイルス活性の評価も試みる。tgDeVヘルパーウイルス同定のために、トリ肝臓由来細胞株のmRNA-seq解析を行う。これにより得られたウイルスタンパク質の発現系を構築し、ウイルスタンパク質存在下におけるtgDeV感染性粒子産生を評価する。またtgDeV感染鳥よりポリオーマウイルスが検出されたことより、ポリオーマウイルスもしくはそのウイルスキャプシド存在下でのtgDeV感染性粒子産生も評価する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Nature
巻: 606 号: 7916 ページ: 1027-1031
10.1038/s41586-022-04857-0
Viruses
巻: 14 号: 4 ページ: 764-764
10.3390/v14040764