研究課題
若手研究
卵巣および子宮内膜に発生する癌の組織型は多岐にわたり、そのひとつに明細胞癌がある。近年、明細胞癌においてNapsin Aが高頻度に発現することが知られ、その免疫染色は日常病理診断に用いられている。正常組織においてNapsin Aは肺や腎臓で発現しているが、卵巣での発現はみられず、卵巣および内膜明細胞癌におけるNapsin Aの発現機序や意義については未だ不明である。本研究ではNapsin Aの発現機序を転写因子面から分子病理学的に明らかにし、明細胞癌の発生機序に新たな知見をもたらしたい。
Napsin Aは末梢型肺腺癌のマーカーとして知られているが、女性生殖器より発生する明細胞癌においても高発現している。しかし明細胞癌におけるNapsin Aの発現機序は不明であり、本課題ではその発現メカニズムを明らかにすることを研究目的としている。初年度に、卵巣明細胞癌においてNapsin Aの発現に関与する転写因子を解析するため、NAPSA遺伝子活性化に関与しうる転写因子3種類(A,B,C)の遺伝子導入が、形質変化に及ぼす影響について解析を行った。その結果、転写因子A導入株では軽度の発現抑制傾向が、転写因子Cでは軽度の発現亢進傾向が見られた。転写因子Bでは一定の傾向は掴めなかった。いずれも、劇的な変化を示すまでの候補転写因子は見つかっておらず、Napsin A発現に強く関与し得る転写因子の同定には至らなかった。今年度は、卵巣明細胞癌株で高い発現を示し、卵巣類内膜癌株で発現のほとんど見られなかった他の候補転写因子Dに注目して検討を進めた。結果、転写因子D導入株では、転写因子A~C導入株よりも高い発現亢進傾向がみられた。そこで、新たな候補転写因子Dと、これまで検討してきた転写因子を共発現させた発現ベクターを作製し、NAPSA発現の見られなかった卵巣類内膜癌株に遺伝子導入することで、候補転写因子を強制発現させた細胞株を作製しNAPSAの発現変化を解析することとした。
2: おおむね順調に進展している
新たな候補転写因子を用いた検討を施行でき、さらに候補転写因子を共発現させた発現ベクターを作製し卵巣癌細胞株に遺伝子導入できた点から、おおむね順調に進展している。
今年度に検討した候補転写因子Dは、これまでの候補転写因子A~CよりもNAPSA発現亢進傾向が見られ、Napsin A発現に強く関与し得る可能性が示唆されたが、劇的な変化とまでは言い難い。今後は、これまでに検討してきた候補転写因子を共発現させた細胞株を用いて、Napsin Aの発現にどのような変化が生じるかを解析したい。さらには、当該転写因子の遺伝子をノックアウトすることにより惹起される遺伝子発現変化についても検討していきたい。
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