研究課題
若手研究
筆者はFucciシステムを導入したSAS細胞(舌癌由来)を用い、セツキシマブ(Cmab)処理後の細胞周期動態を解析し、数日を経てG1期で細胞周期の停止(G1 arrest)を確認し、細胞遊走の有意な低下を認めた。タンパク発現を解析すると、G1 arrestはSkp2の活性低下とp27Kip1の蓄積、オートファジーの発現に起因することが分かった。細胞遊走には細胞骨格系を構成する微小管の動態が関与する。本研究では、Cmab処理によって生じる細胞遊走能の低下と微小管動態の関連、そしてそれによる細胞内輸送タンパクの変化、G1 arrestの生物学的意義を明らかにし、Cmabを用いた治療戦略を探る。
申請者はセツキシマブの長期処理によって頭頸部扁平上皮癌細胞において、G1期での細胞周期の停止、細胞遊走能低下とそれによる細胞密度上昇、オートファジーの発現を明らかにした。次いで、パイロトーシス様細胞死が確認された。パイロトーシスでは、ガスダーミンD(Gsdmd)がカスパーゼによって切断され、そのN末端(Gsdmd-N)が多量体化し、細胞膜上に溶解孔を形成する。近年、非がん細胞においてGsdmd-NがcGASを介してHippo-YAP経路を活性化することが報告された。また予備実験から、セツキシマブの細胞骨格や細胞内タンパク輸送に与える影響は少ないことがわかった。そこで本研究ではパイロトーシスに着目し、Gsdmdの切断やYAP経路への影響に着目することで、セツキシマブの長期処理がパイロトーシスに与える影響を解明することを次なる目標とした。実際、口腔がん細胞株に対し、トランスフェクションにてYAP5SAを過剰発現させたのち、LPSおよびコレラ・トキシンを作用させると、インフラマゾームの活性化を経てGsdmdの切断が増大することを確認した。本結果より、パイロトーシスおよびHipppo-YAP経路の活動性に何らかの関連があることが示された。In vivoでは、4-nitroquinoline 1-Oxide (4NQO)を野生型、およびGsdmdノックアウトマウス(Gsdmd-/-)に16週間投与し、口腔腫瘍形成をエンドポイントとしたDisease-free survival curveを作成し、カプランマイヤー法にて解析したところ、Gsdmd-/-では野生型と比較し、有意に腫瘍形成までの期間が長いことが明らかとなった。今後は本腫瘍モデルを利用し、腫瘍微小環境におけるパイロトーシスと腫瘍免疫、そしてそれらにHippo-YAP経路の増幅がどのように関連するかを研究予定である。
2: おおむね順調に進展している
現時点ではin vivoでの実験で前述の通り有力なデータが得られており、口腔がんにおけるインフラマゾームの役割について、特にガスダーミンDに注目し、その動態解析を集中的に行なってきた。In vitroにおいてもいくつかの興味深いデータが得られたため、引き続き動態解析を行なっていく所存である。
野生型マウスで得られたin vivoデータは有力であり、In vivoでの実験は継続しながら、今後はこれに対するIn vitroでの生物学的メカニズムの検証も併せて集中的に行っていく必要がある。共同研究者の動物実験施設において、タモキシフェンによってYAP経路を過剰発現させるLysMCRE-ER YAP5SAマウスラインが確立されており、今後使用予定である。現在は野生型、およびGsdmd-/-マウスにおける骨髄由来マクロファージの機能に着目し、本経路が腫瘍免疫に及ぼす影響を検証中である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 8件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 12件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 6件)
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