研究課題
挑戦的研究(萌芽)
空間反転対称性の破れた物質では、「シフト電流」と呼ばれる量子力学的機構がはたらくことで巨大な光起電力を得られることが最近発見され、太陽光発電の新原理として大きな注目を集めている。このシフト電流は、様々な素励起過程を介して生じることが期待され、特に空間反転対称性の破れた磁性体では、GHz帯の電磁波を吸収させることで、磁気共鳴(マグノン励起)を介してシフト電流を誘起できることが理論的に予測されている。本研究では、このような磁気共鳴を介したマグノンシフト電流の実験的な観測と、その巨大化に向けた条件探索を行うことで、無線通信で一般的なGHz帯域の電磁波を利用した、新しい環境発電原理の実証を試みたい。
本研究では、空間反転対称性の破れた磁性体で期待されるマグノンシフト電流を、GHz帯域の磁気共鳴を介して実験的に観測することを目指して研究を行った。具体的な対象物質として、キラル・極性構造を持つ磁性絶縁体であるCu2OSeO3とVOSe2O5を選定し、その磁気共鳴ダイナミクスの詳細を明らかにすることに成功した。また、磁気共鳴を強励起した環境下で電流信号を観測するための測定系の立ち上げを行い、マイクロ波吸収に付随して生じる電流信号を観測することができた。今後は温度依存性の詳細な解析や、理論的に予想される電流波形との比較を行う等のアプローチを通じて、マグノンシフト電流成分の抽出を試みる予定である。
本研究の対象である空間反転対称性の破れた磁性体は、磁気スキルミオン・らせん磁気構造といった、特殊な幾何学的性質によって特徴付けられたスピン配列を有することが知られている。本研究では、こうした磁気相における複数の固有振動モードの実験的な同定を行い、さらにシミュレーションを通じてその理論的な再現を行うことに成功した。これらは、トポロジカルスピンテクスチャのダイナミクスの統一的な理解に向けた重要なステップであると考えられる。また、マグノンシフト電流は、GHz帯の電磁波を利用した環境発電原理として利用できる可能性が期待され、今後はその確実な分離方法の確立と、効率の向上にも取り組む予定である。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 5件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件)
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