研究課題/領域番号 |
21K18676
|
研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分18:材料力学、生産工学、設計工学およびその関連分野
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
有馬 健太 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (10324807)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
|
キーワード | ナノカーボン / 異方性エッチング / ウェットエッチング / 原子構造制御 / 触媒 |
研究開始時の研究の概要 |
次世代の高性能電子デバイスを実現するためには、半導体の表面構造を精密かつ自在に制御できる、微細加工法の高度化が不可欠である。微細加工は従来、気相中(ドライエッチング)、もしくは液相中(ウェットエッチング)により行われてきたが、十分でない。 今世紀に入り、“金属アシストエッチング”と呼ばれる、触媒を用いた新たなウェット加工法が登場し、期待が高まっている。しかしこれまでは、触媒に金属を用いる必要があると考えられており、半導体プロセスとの整合性に問題があった。本課題では、主に炭素原子から成るナノカーボンが金属と似た触媒作用を持つことに着目し、これを積極的に活用した、新たな微細加工プロセスを開発する。
|
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ナノカーボンが持つ触媒作用を利用して、次世代半導体表面に対する液相雰囲気下での新しいリソグラフィー法を打ち立てることである。 昨年度までに、走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscopy)を用いて、ナノカーボンの電子状態を原子スケールで観測した。そして、2つの線状欠陥が近接することにより、特異な電子状態が生成するという独自の提案を行った。今年度は、東京大学物性研に設置されているスーパーコンピューターを利用した第一原理計算を実施し、上記の提案の妥当性について検証した。その結果、エッジ部が対向したグラフェンナノリボンにおいて、高いエネルギーを持つ電子は、グラフェンの六角形状の幾何学的構造とは異なる分布を呈することが分かった。そして、昨年度のSTM実験で得られた結果との相関関係について、考察した。 さらに、単一のナノカーボン材料が発現する触媒的な作用を明らかにするため、半導体表面上にグラフェン系のナノカーボンシートを散布した試料を準備し、エッチング液に浸漬する実験を行った。この実験は昨年度まで、酸素ガスを溶存したエッチング液を用いて行ってきた。しかし今年度は、加工速度を高めることを目的として、エッチング液中に強い酸化力を持つ成分を導入した。その結果、エッチング後に形成される表面構造が、昨年度までのエッチング液の場合と大きく異なるという、興味深い現象を見出した。 加えて、ナノカーボンシートを基板上へ膜状に堆積し、パターン化した後にエッチング液に浸漬し、トレンチ構造などの三次元ナノ構造を構築する準備も進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次世代の電子光学デバイスの実現には、半導体の表面構造を超精密かつ自在に制御できる微細加工法の高度化が不可欠であり、”金属アシストエッチング”と呼ばれる、触媒作用を援用したウェットエッチングが注目されている。本研究では、触媒材料として貴金属に代替するナノカーボン材料の可能性に着目し、次世代半導体表面に適用できる新しいリソグラフィー法を打ち立てることを目指している。ここで、ナノカーボン材料とは、グラフェンネットワークを有する微小なシートであり、構造欠陥を導入することによって、触媒作用を発現する。しかし、ナノカーボンの原子構造や電子状態が、接触した半導体表面のエッチング現象を加速するメカニズムについては、未だによく分かっていない。 本研究では、プローブ顕微鏡技術と量子力学計算を組み合わせることにより、まず、ナノカーボンが持つ電子状態を理解することを試みた。加えて、半導体表面のエッチング特性に影響を与えるパラメータ(ナノカーボンの構造や欠陥、溶液種など)を明らかにして、高い加工速度を持つリソグラフィープロセスへと展開するための準備を整えた。 本年度は、上記の指針に従って研究を遂行し、(1)本課題に関連して、2冊の書籍において分担執筆を行う、(2)米国AVSが主催する表面界面に関する国際会議において、口頭発表を行う、(3)本課題に取り組む指導学生が、国内学会や国際会議において口頭・ポスター発表を行う、(4)(3)の取り組みの中で、一名がエクセレントプレゼンテーション賞を受賞する、などの多くの成果を得た。そのため、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
上述のように、今年度よりエッチング液に酸化剤を加える新たな実験条件を用いた実験を開始した。そして、用いる酸化剤毎に、エッチングモードが顕著に異なるという興味深い現象を見出した。今後は、酸化剤を構成する分子とナノカーボン材料との相互作用を考察し、半導体表面の構造を自在に制御するための触媒援用加工の条件(ナノカーボンの原子構造、酸化剤の種類・濃度、エッチング液の温度など)を探索するべく、実験を進める。 加えて、これまでに実施してきた、第一原理に基づくナノカーボンの電子状態シミュレーションをさらに拡張する。そして、ナノカーボンに存在する”しわ”などの代表的な構造欠陥が電子状態(バンド構造、局所状態密度の分布 など)や触媒活性(酸素分子の吸着や解離特性)に与える影響を吟味する。得られた成果を誌上発表することが次年度の目標の一つである。 また、半導体表面上へのナノカーボン触媒膜の成型プロセスについて、技術レベルや完成度を高める。そして、この試料をエッチング液に浸漬し、触媒膜を援用した三次元構造の形成と評価を行いたい。
|