研究課題/領域番号 |
21K18965
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分33:有機化学およびその関連分野
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
濱島 義隆 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (40333900)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2021年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | ケトン増感剤 / イオン対 / 水素結合 / 自己会合 / 光励起 / 位置選択性 / エナンチオ選択性 / 光反応 / 不斉合成 / 環化付加反応 / C-H活性化 / 不斉触媒 / シクロブタン |
研究開始時の研究の概要 |
複数のタンパク質が会合することで精密制御される生体内合成を範として、高難度反応に必要な機能を要素化し、モジュール化した会合型触媒の開発と応用を研究する。具体的には、基質捕捉と光励起を担う各ユニットをイオン対形成させた会合型不斉触媒を創製し、これまで選択性制御が困難とされてきた光増感による[2+2]環化反応の選択性制御により強力な生物活性を有するシクロブタン類の効率的合成法を開発し、創薬に貢献する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、会合型多機能性触媒を創製し、これまで選択性制御が困難とされてきた光化学反応の不斉触媒化を実現することである。具体的には、アニオン受容体を有するキラルアミンと強酸を有する光増感ケトン触媒とからなるイオン対会合型触媒により不斉光反応を進展させる。 今年度は、十分な三重項エネルギーと比較的長い励起寿命を有するチオキサントンをスルホン酸で修飾したケトン光触媒とビナフトールジアミンに水素結合ドナーとしてウレアを結合させたキラルアミンを用意し、アンモニウムイオンのイオン対を形成させた。中和反応で生成したスルホナートイオンは触媒内のウレアと水素結合していることがNMR測定により示唆された。会合体は室温において均一であることが確認され、機能性モジュールをそれぞれ組み合わせることにより多様な会合型触媒のライブラリーを構築可能であることが改めて示された。 次に、上記のイオン対触媒に含まれる1級アミンのアンモニウム部位を利用する反応の検討に着手した。すなわち、シンナムアルデヒドと触媒のアンモニウム部位を反応させれば、エニミニウムイオンが生成する。アルケン基質が触媒内に捕捉されるため、光励起が起これば高いエナンチオ選択性で2+2付加環化反応が進行すると考えた。しかしながら、エニミニウムイオンは光励起により高い酸化能を発揮するためか、触媒が分解しやすいことがわかった。また、エニミニウムイオンは反応条件下において安定であり、触媒回転を阻害することもわかった。そこで、イミニウム種の酸化力の低下と加水分解の加速を期待して、シクロヘキサンジアミンを母核とするウレア-アンモニウム触媒を合成したが、アンモニウムイオンの近くにケトン光増感剤が配置されていると分解しやすかった。この理由は今のところ、不明である。以上の実験結果から、アンモニウムイオンは触媒設計に利用できないことが明確となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では、「アニオン受容体を有するキラルアミンと、光増感作用を有する強酸とからなるイオン対会合型触媒を調製すること」を最初の課題とした。この2年間で、アニオン捕捉部位を有するキラルアミンならびにケトン型光増感触媒のラインナップを拡充してきた。また、NMR実験により当初のコンセプト通りに均質なイオン対会合体が生成できることを確認し、機能性モジュールをそれぞれ組み合わせることにより多様な会合型触媒のライブラリーを潜在的に構築可能であることも示された。 上記で形成した各種の会合型触媒の機能評価を行うためアルケン類の[2+2]環化反応の不斉制御を検討しているが、反応促進に触媒が必要なことは確認できたものの高いエナンチオ選択性を観測するには至っていない。今年度は、基質捕捉の方法論として当初の計画にはなかったイミニウム種の利用を検討した。共有結合にて基質を反応空間に固定できるため期待したが、触媒設計上、有益な情報が得られたものの、合成反応としてよい結果が得られなかった。初年度に見出した不斉誘導が可能である触媒系において本年度に合成できたモジュールを適用し、概念検証だけでなく、合成反応としても評価できる触媒系を得たいと考えている。以上のことより、研究はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2年度はシンコナアルカロイド以外のキラルアミンを母核とする触媒の合成が達成できた。イオン対会合型触媒を均質に形成可能なことを確認できたのは大きな成果であったが、不斉制御はまだまだ不満足な結果であり、改善が求められる。エナンチオ選択性の改善に向けて会合型触媒ライブラリーを構築しスクルーニングすることを計画しているが、触媒モジュールが充実してきたため、今後は触媒ライブラリーを構築していく。 本年度に合成したアンモニウム部位をもつ会合型触媒は、可視光照射下でも安定性に問題があったが、初年度に合成したものも含めて基質捕捉部位がウレア構造のものは分解しにくいことがわかっている。また、これまでの触媒設計では、ケトン型光触媒のアニオン部位を捕捉するユニットと基質捕捉ユニットがそれぞれ異なる構造であったため、触媒合成も工程数を要した。基質をエノンのようなカルボニル化合物にすれば、ウレアの水素結合を2つの目的に利用できるため、次年度は対称型ビスウレア触媒を検討する。これにあたり、光触媒部位をどのように会合させることができるかについて基礎検討を行う。また、アルケニルボロン酸エステルとの相互作用を期待して基質捕捉部位としてヒドロキシ基を備えた触媒も合成し、検討する。さらに、ケトン増感剤の酸性官能基については、スルホ基に加えてリン酸エステル基やカルボキシ基にも拡張し、それらの置換位置の異性体とともに評価する。 会合体の構造をある程度安定化するしくみについては変更する必要があると考えていたが、これまでの結果から酸・塩基反応によるイオン対形成とアニオン受容体が有効であることを支持する結果を得ているため、当初の方針を継続する。以上のような研究を実施することで、3年度はエナンチオ選択性の大幅な改善を達成したい。
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