研究課題/領域番号 |
21K19290
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分45:個体レベルから集団レベルの生物学と人類学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩田 容子 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (60431342)
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研究分担者 |
佐藤 成祥 東海大学, 海洋学部, 講師 (40723854)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 行動生態学 / 性選択 / コミュニケーション / 頭足類 / 偏光 |
研究開始時の研究の概要 |
性淘汰において、配偶相手の質や繁殖ステイタスを表す情報は非常に重要であるが、これまでの知見は、色や大きさなど、人間が認識できる視覚情報に限られている。頭足類の種内コミュニケーションには視覚情報が重要と考えられており、近年偏光を識別できることや、体表面に特徴的な偏光模様を持つことが明らかとなってきた。そこで本研究は、頭足類を用いて、交尾前・交尾後の性淘汰過程における偏光利用とその適応的意義を世界で初めて明らかにすることを目的とする。具体的には①雄の性的二型形質の偏光特性は求愛成功に影響しているか、②雌の交尾経験を示す偏光特性は、雄の配偶者選択や精子配分戦略に影響しているか、を明らかにする。
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研究実績の概要 |
性淘汰において、配偶相手の質や繁殖ステイタスを表す情報は非常に重要である。頭足類の種内コミュニケーションには視覚情報が重要と考えられており、近年偏光を識別できることや、体表面に特徴的な偏光模様を持つことが明らかとなってきた。そこで本研究は、頭足類を用いて、交尾前・交尾後の性淘汰過程における偏光利用とその適応的意義を世界で初めて明らかにすることを目的とし、1) 交尾前性淘汰が重要と考えられるエゾハリイカを用いて、雄の性的二型形質の偏光特性は求愛成功に影響しているか、2) 交尾後性淘汰が重要と考えられるヒメイカを用いて、雌の交尾経験を示す偏光特性は、雄の配偶者選択や精子配分戦略に影響しているか、を明らかにする。具体的には、1-1) 偏光特性の性的二型と繁殖行動との関係、1-2) 雌の偏光認識能力、1-3) 求愛時に使うイカ墨の視覚的効果、また2-1) 貯精嚢が示す偏光の測定と偏光反射メカニズム、2-2) 雌の交接経験と雄の配偶者選択、2-3) 雌の交接経験と雄の精子配分戦略について検証する。 2022年度には、1-1)エゾハリイカの求愛行動に関し、2021年度に引き続き偏光カメラを用いた行動観察を行い、十分な例数のデータを得た。また特異的に強い偏光を示す雄の第二腕の組織学的観察を行った。1-2) エゾハリイカの雌に偏光情報のみを提示する特殊モニターを提示し、雌の偏光情報に対する反応を観察した。また、2-3) ヒメイカを水槽で交接させ、雄の射精量(雌の体表面に付着した精莢の本数)を計測した後すぐに雌を固定し、すでに持っていた貯精嚢内の精子量を測定することで、貯蔵精子量に応じた雄の射精戦略との関係について調べる実験を実施した。加えて、ヒメイカとは異なる精子貯蔵様式を持つ、オーストラリアヒメイカについても貯精と射精戦略を調べる行動実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1-1) 2021年度に引き続き、エゾハリイカの繁殖行動時に体表面が反射する偏光を観察した。その結果、雄のみ顕著に伸長するという性的二型が見られる第二腕が求愛の際に特異的に強い偏光を発することを示す、十分な例数のデータが集まった。また、雄の腕が強い偏光を示すメカニズムを明らかにするため、電子顕微鏡を用いて表皮の虹色素胞の分布を観察した。さらに、複数の波長のLED照明と偏光板を用いて腕に光を照射し、腕が示す偏光度と偏光角度を測定することにより、エゾハリイカ雄の腕が示す通常とは異なる偏光角度が生じるメカニズムを検証する実験を行った。 1-2) 雌の偏光認識能力を明らかにするため、エゾハリイカの雌に偏光情報のみを提示する特殊モニターを提示し、雌の偏光情報に対する反応を観察した。昨年度行った電子顕微鏡による網膜の組織構造観察と合わせ、エゾハリイカが偏光を識別する能力を有することを確認した。 1-3)雄が求愛時の明るい体色を引き立てる視覚的効果としてイカ墨を使用することを記載した論文を投稿した。 2-3) ヒメイカにおいて雌の交接経験が雄の精子配分戦略に影響するかを検証するため、雌雄1個体ずつを用いた行動実験を行い、雌の貯精量と雄の射精量との関係を調べる実験を行った。また、雌体内での貯精様式が異なる近縁種オーストラリアヒメイカにおいて、交接行動と貯精様式・雄の射精量を調べる行動観察を行った。
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今後の研究の推進方策 |
1-1)行動観察実験に関しては、十分な例数を得ることができたことから、今後映像データの解析と論文執筆を行う。また、2022年度に引き続き、第二腕における虹色素胞の分布、虹色素胞内の光を反射するプレートの数や角度をTEM/SEM観察により定量的に測定し、またその雌雄差を検証する。 1-2) 2022年度に実施した偏光情報のみを提示する特殊モニターを用いて雌に偏光情報を提示する実験のデータ解析を行い、雌の偏光識別能力を定量的に測定する。 1-3)エゾハリイカの求愛におけるイカ墨利用に関する論文を投稿済みで、現在リバイス作業をおこなっている。 2-1) 貯精嚢が精子貯蔵によって光を反射することは確認できたが、その偏光特性の測定はまだできていない。今年度は測定条件を検討した上で、偏光カメラによる観察を行う。また、貯精嚢の電子顕微鏡観察を行い、偏光を反射する組織学的メカニズムを検証する。 2-2) 2021年度に行った雌の交接経験による雄の配偶者選択の行動実験で得られた膨大な映像の解析作業が遅れておりまだ終了していない。2023年度はこれを解析し、雄が処女雌と既交接雌を見分けることができるかを検証する。 2-3) 雄が精子競争や精子塊除去のリスクに応答し、雌の交接経験や貯精量に応じて射精量を調節しているか、引き続きサンプル数を重ねた後、解析作業に取り掛かる。また、オーストラリアヒメイカの調査は2023年度9月に行い、データを取り切る予定である。
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