研究課題
挑戦的研究(萌芽)
学習・記憶の素過程であるシナプス伝達の長期増強(LTP)は、強い興奮性入力によってシナプス伝達効率が高くリセットされる、ポジティブ・フィードバック現象である。そのメカニズムは、1)シナプス後膜上のイオンチャネル型グルタミン酸受容体の増加、2)アクチン重合による樹状突起棘(スパイン)の拡大の結果としてのシナプス面積の拡大である。さらに強い入力は、新規蛋白質合成に依存する持続性の LTPをもたらし、短期記憶を長期記憶に固定化するが、メカニズムには不明な点が多い。応募者らは先行研究と予備実験データに基づき、「スパインへの滑面小胞体の伸展が持続性のLTPに寄与する」という作業仮説を立て、検証を行う。
記憶固定化のシナプス機構の一環として、「シナプス入力でSEPT3がリン酸化され、スパイン基部から遊離してER膜上に移行し、ミオシンMYO5A-ER間のアダプターとしてER牽引に寄与する」という作業仮説を立て、検証した。シナプス活動に伴うリン酸化を模倣した変異型SEPT3と活性型MYO5AはDGニューロンのスパインへのER伸展に相加的に作用した。CID法によるERj1-SEPT3、MYO5A-ERj1の会合はER含有を促進することなどから、「リン酸化SEPT3-活性型MYO5A複合体がスパイン基部のER膜と直接または間接的に接触し、アクチンを介してERを牽引する」という分子機構を想定している。
シナプス伝達効率が強い入力で亢進する長期増強現象(LTP)は、一過性の前期相(E-LTP)と蛋白質合成に依存する持続性の後期相(L-LTP)に区分される。E-LTPからL-LTPへの移行は短期記憶から長期記憶への転換(固定化)のシナプス基盤とされているが、不明な点が多い。ヒトの知能とSEPT3の関連はGWASで示唆されているが、脳特異的かつニューロン選択的に発現するSEPT3の存在意義は不明であった。本研究では、SEPT3欠損マウスの記憶固定化障害を見出したことを端緒に、シナプス活動とMYO5A/SEPT3に依存したスパイン内へのERの伸展が記憶固定化のシナプス機構であることを見出した。
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Life Science Alliance
巻: 5(12) 号: 12 ページ: e202101205-e202101205
10.26508/lsa.202101205