研究課題
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18世紀後半から19世紀にかけて生み出された新たな技術や知識を導入する産業振興政策の一つに,懸賞課題の制度が挙げられる。懸賞課題とは,支払われる懸賞の金額を事前に知らせた上で,産業・学問上の課題に対する解決法を広く公衆に求める政策である。18世紀後半よりザクセンで実施された懸賞課題は,七年戦争の荒廃からの復興を目指した政策の一つに位置付けられていた。この政策に関する研究は広く進展しているものの,数量分析への偏りの問題や,懸賞課題の成果と生産の関係が未解明という課題がある。そこで本研究では,18世紀後半ザクセンの懸賞課題をとりあげ,それが生産活動とどのような関係にあったかを明らかにする。
本研究では,18世紀ザクセンにおける産業の発展を支えた産業振興政策の1つとして懸賞課題の制度を取り上げて分析した。懸賞課題とは,支払われる懸賞の金額を事前に知らせた上で,産業・学問上の課題に対する解決法を広く公衆に求める政策である。本研究では,18世紀後半ザクセンの懸賞課題が,繊維産業において新規の職業への起業家精神を促進するというよりはむしろ,すでに従事している職業における製品の品質向上を主に達成してきたことを明らかにした。また,産業振興政策における成功は,その政策に応えることのできる既存の社会層が存在することに依存した。
18世紀後半のザクセンは産業の機械化を進展させ,本格的な工業化を準備した期間であった。ザクセンの工業化研究においては,従来19世紀の工場設立や機械化に注目が集まってきたが,本研究によって,18世紀後半に製品の生産性だけでなく,製造技術や品質も向上していたことが明らかになった。19世紀中頃以降の本格的な工業化の準備期となる18世紀に,すでに質的な変化があったことを的確に示した。懸賞課題は,課題解決のための経済的インセンティブを与える政策として一般的に用いられている。達成不可能な課題は意味をなさないため,募集対象となる社会集団の性質に十分に配慮する必要があると言える。
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L’economia della conoscenza. Innovazione, produttivita e crescita economica, secc. XIII-XVIII. The knowledge economy. Innovation, productivity and economic growth, 13th to 18th century
巻: Datini studies, 3 ページ: 89-114
10.36253/979-12-215-0092-9.07
MPRA Paper
巻: Item ID:117204