研究課題/領域番号 |
21K20128
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0107:経済学、経営学およびその関連分野
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
高井 駿 青山学院大学, 会計プロフェッション研究科, 助手 (30910822)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | 退職給付会計 / 現在価値測定 / 割引率 / 利息費用 / 期待収益 / 割引現在価値測定 |
研究開始時の研究の概要 |
現行の退職給付の会計基準は,割引現在価値による測定と利息費用の認識を求めているが,採用されている割引率は測定の目的と必ずしも適切に対応しているとはいえない。退職給付会計に関する議論においては,財務会計の目的との関係から測定の意義を検討するという視点が欠けていたために,その測定の意義が明らかにされていないと考えられる。そこで,退職給付会計における割引現在価値測定について,財務会計の目的との関係から検討を行う。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、退職給付会計における現在価値による債務の評価とそれに伴う利息費用の認識について、財務会計全体の体系における目的との関係から検討を行うことにより、その測定の意義を明らかにすることにある。今年度は、現行基準における割引率にかんする規定の整理と、理念型に基づいた退職給付会計基準にかんする議論の再整理を行った。 現行基準における割引率にかんする規定の整理については、以下のとおりである。現在価値測定を要求している基準において割引率にかんする規定は一貫しておらず、事後測定において認識される利息要素にはリスクを含むものと含まないものとがあり、また、利息要素を積極的に意味づけている基準とそうではない基準とが存在しているとみられる。割引率については当初測定の観点から論じられることも多いがその選択は事後測定にも影響を与えるのであり、利息要素についての検討も必要であると考えられる。当該研究成果については、日本会計研究学会第81回大会において報告し、2023年4月刊行の『會計』第203巻第4号に論文が掲載された。 理念型に基づいた退職給付会計基準にかんする議論の再整理については、以下のとおりである。退職給付の会計基準については、フローからストックへの会計観の転換とかかわらせて論じられることも少なくないが、そこではストックとフローが多義的にとらえられている。それぞれの観点に基づいた理念型に依拠して議論の再整理を行えば、現行基準において採用されている従業員の勤務に着目した認識の方法は、ストックの観点ではなくフローの観点と整合的であるといえる。しかし、現在価値による測定については、いずれの理念型との整合性からも結論を導くことはできず、その測定については検討が必要であると考えられる。当該研究成果については、第3回『企業会計』カンファレンスにおいて報告を行い、現在、査読誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画においては、先行研究レビューにより明らかとなった現在価値測定の目的に基づき退職給付会計基準において採用されている会計処理について検討することで、財務会計全体の体系における目的との関係から、その測定の意義を明らかにする予定であった。しかし、現在価値測定の意義について検討するためには測定の目的の観点のみでは不十分であり、適用される割引率および事後測定の観点からの検討も必要とされることが、昨年度の研究成果より明らかとなった。 そこで今年度は、現在価値測定を要求している会計基準において適用されている割引率と事後測定の関係の再整理を行った。そこでは、事後測定において認識される利息要素について、当初測定における割引率の選択によりリスクを含むものと場合と含まない場合とがあり、また、その表示において積極的に意味づけている場合とそうではない場合とが存在しているとみられた。そのなかで、退職給付の会計基準については、リスクフリーレートに近い割引率を採用し事後測定において認識される利息要素にはリスクを含まないという点で各基準が共通していること、および、利息要素を営業項目として表示するのか金融項目として表示するのかという点には相違がみられることが明らかとなった。 また、今年度は、退職給付会計基準について、フローの観点からストックの観点への会計観の転換とかかわらせて論じている先行研究について再整理を行い、それぞれの観点の理念型との整合性からは、現在価値測定についての結論を得られないことが明らかとなった。 今年度の研究成果から、退職給付会計基準については、リスクフリーレートに近い安全性の高い債券の利回りを割引率として採用することが、どのような測定の目的の達成に資するものであり、リスクを含まない利息要素を事後測定において認識することにどのような意味があるのかを検討する必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
退職給付の会計基準において採用されている、安全性の高い債券の利回りを割引率として用いた現在価値測定と、事後測定におけるリスクを含まない利息要素の認識が、どのような意味を持つものであるのか検討を行う。 退職給付の会計基準については、リスクフリーレートに近い安全性の高い債券の利回りが、米国基準、国際基準および日本基準の各基準において共通して採用されている。しかし、各基準においては、米国基準は債務を清算できる利率として割引率を考えているのに対して、国際基準は債務を資金調達額として考えており、その測定の目的は相違していると考えられる。当初測定の観点からは、共通して採用されている割引率が、どのような測定の目的の達成に資するものであるのかを検討する必要がある。 さらに、適用される割引率から、事後測定において認識されている利息要素にはリスクが含まれていないと考えられるが、国際基準および日本基準においては営業項目として表示されているのに対して、米国基準においては金融項目として表示されている。このように、同様の測定操作によって得られる測定値に対して異なる表示方法が選択されており、事後測定の観点からは、その背後にどのような考え方の相違が存在するのかを検討する必要があると考えられる。 これらの検討に際しては、日本の資産除去債務の会計基準の議論が参考になると考えられる。すなわち、そこではリスクフリーレートを割引率として採用した現在価値測定と、リスクを含まない利息要素が事後測定において営業項目として認識されているからである。このよう認識・測定の方法は、国際基準および日本基準の退職給付の会計基準と類似しており、とりわけ米国の退職給付の会計基準との比較を行うことで、その測定の意義について検討することが可能であると考えられる。
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