研究課題
若手研究(B)
高血圧は血管内皮を損傷し、脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な循環器疾患の一因となる。我々はこれまでに、鶏コラーゲン加水分解物を摂取すると、高血圧自然発症ラット(SHR)において血圧の上昇抑制作用や、正常高値ならびに軽症高血圧者(ヒト)において同じく血圧上昇抑制作用を見出してきた。また、これらの研究の中で、鶏コラーゲン加水分解物の摂取により血管内皮前駆細胞の活性化(増殖)を見出してきた。そこで本研究では、(1)畜種が異なる加水分解物(豚コラーゲンやカゼイン)ならびに鶏コラーゲン加水分解物のNativeな状態(鶏ゼラチン)でも同様な効果が得られるのか、また、(2)その作用機序が何によるのか、の2点について検討を行ってきた。具体的には高血圧自然発症ラット(SHR)を用いて、鶏ゼラチン或いは、鶏コラーゲン、豚コラーゲンおよびカゼインから調製した加水分解物をそれぞれ7週間投与し、SHRから血管内皮前駆細胞(EPC)および血清と各種組織(肝臓、心臓、腎臓、血管)を得た。各飼料を投与した際の腎臓の影響を確認するため、血清中の腎臓マーカー(β-Microglobulin、Calbindin、TIMP-1、VEGF、KIM-1、Cystatin、Osteopontin等)の測定を実施した。また、腎臓と心臓からはm-RNAを抽出し、各種サイトカイン(CD34、Flk-1、NOS3等)のリアルタイムPCRを行った。その結果、腎炎症マーカーでは、豚コラーゲン加水分解物区で、対照と比較してTIMP-1が約1.2倍に有意に増加する項目が認められたものの、その他の項目では大きな違いは認められなかった。一方、リアルタイムPCRの結果から、ゼラチン区と鶏コラーゲン加水分解物区では、EPCのマーカーであるCD34とFlk-1に約2倍から約1.5倍の有意な増加が認められた。また、カゼイン加水分解物区ではFlk-1とNOS3の発現が有意に増加した(それぞれ2倍と8倍)。各飼料の投与によるEPCの活性化をより明確にするため、末梢血から調製したEPCに各飼料を投与したラット血清を添加して、メチルセルロース培地で培養したところ、鶏コラーゲン加水分解物区ではEPCの有意な増殖が認められ、さらにカゼイン加水分解物区ではEPCから脈管形成により初期血管の形成が確認された。今回の結果から、鶏コラーゲン加水分解物の摂取はEPCの増殖を活性化し、さらにカゼイン加水分解物はEPCの血管内皮細胞への分化を誘導することが明らかとなった。
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日本家政学会誌
巻: 61 ページ: 765-773