研究課題/領域番号 |
22K04497
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分23030:建築計画および都市計画関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
栗原 伸治 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (60318384)
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研究分担者 |
八代 克彦 ものつくり大学, 技能工芸学部, 特別客員研究教授 (80242296)
斎尾 直子 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (80282862)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 構成要素 / 微生物 / 植物 / 動物 / 人間 / 神 / もの / ワークショップ型フィールドワーク / 動植物 / 呼称 / 建設工程 / 画像 / 映像 / 連鎖網 / 窰洞 / データベース / 認識論的転回 / 存在論的転回 |
研究開始時の研究の概要 |
1981年以降実施してきた窰洞研究では、その特異な居住空間を、いわば「空間ありき」「人間ありき」という観点から認識してきた。しかし近年、人間/自然などの二元論を超えて、動植物、物、神など多様な環境構成要素を人間と同等に扱う新たな人類学的な観点も注目されている。本研究では、両観点を接続させ、これまでに蓄積した窰洞の膨大な資料と現地調査から抽出する構成要素を空間-人間中心の見方から一旦解放し、動的ネットワークをなす同等の要素として扱う。そうすることで、伝統的居住空間の共有性・継承性と連鎖網の動態を明らかにし、さらにはこの新たな観点や方法による他の伝統的居住空間研究への適用可能性についても検討する。
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研究実績の概要 |
本研究は、中国黄土高原の伝統的な穴居「窰洞」の居住空間を対象に、構成要素の共有性・継承性と連鎖網にかかわるデータベースを作成し、その動態について分析・表現していくことを目的にしている。そのために、2023年度は、1)2022年度の成果として得られた構成要素のリストとデータベースの作成方法をもとに、現地調査の実施内容を検討した。2)現地調査にて、1)の調査内容を確認・再検討しつつ実施し、データを収集した。3)現地調査で得られたデータの整理ととりまとめをおこなった。 具体的には、1)伝統的居住空間の構成要素の抽出とそのデータ化のルールづくりをおこなった。2)8月30日~9月7日、陝西省咸陽市三原県の地下タイプの下沈式窰洞の居住空間を中心に、さらに延安市宝塔区・延川県の地上式窰洞の居住空間も対象とした現地調査を実施した。その際、西安建築科技大学、西安交通大学等の学生 6 名とともに、いわば「ワークショップ型フィールドワーク」をとおして、窰洞の居住空間の実測、構成要素の抽出と現地の人びとへのインタヴュー調査などをおこなった。3)構成要素をめぐる呼称、場所(平面・断面レベル)、分類、つながりなどの一覧表を作成し、それをもとに共有性・継承性と連鎖網に関する分析・考察をした。 以上のように、2023年度はおもに中国黄土高原南部でみられる下沈式窰洞の居住空間に存在する構成要素の連鎖網について、ワークショップ型フィールドワークで得られたデータにもとづいて分析・考察した。結果、地上家屋との共通性および下沈式窰洞ならではの特異性について、これまでとは異なる表現によって捉えることができた。すなわち、居住空間の図面のうえに構成要素を描くという従来の捉え方ではなく、微生物、植物、動物、人間、神、ものなどの連鎖網のなかで居住空間を浮かび上がらせるという、従来とは逆からのアプローチによる捉え方ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度の研究実績の概要でも触れたとおり、2023年3月に予定していた中国黄土高原の窰洞集落における予備調査は、社会的な情勢により中止を余儀なくされた。そのため、当初、第1回目の本調査と位置づけていた2023年夏の現地調査が、予備調査兼第1回目の本調査という位置づけになった。この調査にむけて、1980年代を中心に黄土高原で調査を実施してきた窰洞考察団(団長:青木志郎東京工業大学名誉教授/日本大学元教授。本科研費の研究代表者・分担者・協力者も、この考察団のメンバーとして調査に参加していた)が蓄積した資料、および近年の黄土高原や窰洞をめぐる資料をもとに、十分な準備をすすめていたつもりであった。しかしながら、2023年夏に実際に黄土高原南部地域へ赴いてみると、下沈式窰洞集落の変化は想像をはるかに超えたものであった。 窰洞の居住空間、そしてそこに実際に住んでいる人びとの数が予想していた以上に激減していた。また、このことに呼応して、居住空間でみられる植物、動物の種類もかつてにくらべ大きく減少していた。さらに、微生物、植物、動物、神との共生に関しても、想定していたような状況はみられなくなっていた。このような現状を目の当たりにすることになったため、これらの構成要素に関するデータは十分には収集できなかった。 以上のような理由から、「やや遅れている」との判断に至った。なお、当初の研究計画では、2024年3月にも現地調査をおこなうことにしていた。しかしながら、植物が繁茂している状態で調査を実施したほうが本研究の目的に合致するため、植物があまり育っていない3月の調査は中止にすることとした。3月の植物の生育状況については、とくに今後の調査対象地とする寒冷地域の黄土高原北部においては顕著である、と考えれれることも中止の判断の後押しをした。
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今後の研究の推進方策 |
上記のような「現在までの進捗状況」から、本来の研究目的も見据えて、今後は黄土高原北部の窰洞集落を対象に調査をすすめていく。なぜなら、黄土高原北部では、いまなお比較的多くの人びとが窰洞の居住空間に住まい、またその居住空間において植物、動物も比較的多くみられ、さらには微生物、植物、動物、人間、神等との共生も比較的多く確認できるとの期待がもてるからである。そのうえで、現地調査で得られたデータをもとに、窰洞という伝統的居住空間の共有性・継承性と連鎖網の動態について考察していく予定である。 このような予定にむけて、1)まずは、黄土高原北部の現状に関して、文献等をもちいた調査をおこなう。2)つぎに、その結果をもとに、黄土高原北部の具体的な調査対象地および調査内容について検討する。3)また、2)の検討結果にもとづいて現地調査を実施し、伝統的居住空間の構成要素の共有性・継承性と連鎖網に関するデータを収集する。4)そのうえで、現地調査で得られたデータを分析・考察する。5)この黄土高原北部の斜面に横穴を掘るタイプの靠崖式窰洞および地上に建てるタイプの地上式窰洞の居住空間に関する分析・考察と、2023年度に実施した黄土高原南部における地下タイプの下沈式窰洞の居住空間に対する分析・考察をふまえ、窰洞という生きられた伝統的居住空間の共有性・継承性と連鎖網について表現することを試みる。 以上のことから、伝統的居住空間の動態に対する新たな捉え方が可能になるものと期待できる。
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