研究課題
基盤研究(C)
肺炎球菌莢膜ワクチン(PCV)の導入後、無莢膜型肺炎球菌(NESp: non-encapsulated S.pneumoniae)の増加が疫学上の問題となっている。NESpは莢膜を有しないため病原性が低いと考えられてきたが、近年多剤耐性株による敗血症や肺炎の発症が報告されるなど病原性の検証が必要と考える。本研究では、NESpの経気管内投与法を用い侵襲性感染の惹起能を解明するとともに、NESpの表面蛋白抗原PspK (Pneumococcal surface protein K)の役割を明らかにする。さらに、PspKおよびNESp菌体を用いた免疫によるNESp性肺炎に対する予防効果を評価する。
【はじめに】肺炎球菌蛋白結合型莢膜多糖体ワクチンの導入に伴い、非ワクチン血清型株による感染症の増加が警鐘されている。無莢膜型株(NESp: nonencapsulated Streptococcus pneumoniae)は主に小児と高齢者に侵襲性感染症を引き起こすことが報告されている。しかし、病原性が低いため侵襲性感染症を検討する良好な感染モデルがなく病原性の評価がなされていないのが現状である。我々はNESp経気管内投与による侵襲性肺炎マウスモデルを確立するとともに病原性の評価を行なった。【方法】NESp野生株(MNZ11)と莢膜型肺炎球菌株(6A)を用いた。NESpの病原性については生存率と肺組織中に含まれる肺炎球菌数、サイトカイン誘導を評価した。【結果】6A感染マウスは全例24時間以内に菌血症にて死亡した。MNZ11感染マウスにおいても48時間以内に菌血症を伴う致死的肺炎が約半数に引き起こされた。炎症性サイトカイン、ケモカインであるTNFα、CXCL-1、GM-CSFがMNZ11感染マウス群において6A感染群と同様に上昇した。【考察】NESpは下気道内に侵入することで、侵襲性肺炎や菌血症といった致死的感染症を引き起こす病原性を持つことが示された。NESpは莢膜型株に比較して病原性が低い反面、低免疫能を背景とした高齢者における誤嚥性肺炎や小児の急性中耳炎などの感染症への影響が懸念される。そのためNESpの病原性に基づいた新たな感染予防戦略の開発が必要である。【実績】上記研究内容を国内の複数の学会で口演発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
当該年度は無莢膜型肺炎球菌NESpを用いた成体マウスにおける侵襲性感染症モデルを作成することを想定していたため、その進捗は達成できたものと考える。
NESpにはPspKという特異病原因子が存在する。これまでに侵襲性感染におけるPspKの働きを追求した報告は乏しい。NESpのpspk領域をノックアウトしたpspKノックアウト株(NESp Δpspk株)を作製するものと同等の方法でpspKノックイン株(NESp::pspK)を作製する。作成した変異株によって、侵襲性感染におけるpspKの影響を調査する。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (3件)
Journal of infection and chemotherapy
巻: 28 号: 11 ページ: 1452-1458
10.1016/j.jiac.2022.07.003