研究課題/領域番号 |
22K13033
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
郭 佳寧 国際日本文化研究センター, 総合情報発信室, 特任助教 (00848731)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2026年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 真言教学 / 中世日本 / 頼瑜 / 覚鑁 / 根来寺 / 高野山 / 真言密教 / 寺院聖教 |
研究開始時の研究の概要 |
中世真言密教の教学に新潮をもたらす稀代の学僧として頼瑜があらわれた。頼瑜をめぐる従来の研究では、本来の真言教学との相違点をめぐって頼瑜の密教教学の特徴について個別的な研究はあるが、教理研究に偏る傾向がみられる。一方、従来の仏教諸宗において変革が起こりつつある中世日本の中、頼瑜とその法流が自らの真言教学をどのように実践し、どのような展開を遂げたのかについて、寺院史・宗教史以外の分野で充分に論ぜられたとは言い難い。本研究はこの問題を解決するため、頼瑜とその法流が中世顕密仏教の中でどのような意義を有する宗教実践をしたのか、またそれらの中世日本の宗教改革運動における位置づけを明らかにするものである。
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研究実績の概要 |
本研究は宗教テクスト学の重要性を再認識しつつ、寺院聖教における書写・伝授のネットワーク、及びその中核となる教相・事相における縦軸(真言密教のなかの頼瑜教学)と横軸(同時代宗教界のなかの頼瑜教学)を明確化し、頼瑜とその法流が中世顕密仏教の中でどのような意義を有する宗教実践をしたのか、またそれらの中世日本の宗教改革運動における位置づけを明らかにするものである。 以上の課題意識に基づき、2022年度において、頼瑜と大伝法院流における宗教実践に焦点を当て、儀礼と宗教テクストをめぐる信仰と実践の在り方について考察してきた。その中でも特に、講式という宗教儀礼テクストを取り上げた。講式は儀礼テクストとして作者と制作目的によって、文書の表現が多様でありながら、願主および法会の対象によって文句が改変されたことがある。また、講式は儀礼テクストとして読み上げられながら、教義を説くテクストとして教団内外において書写、相承されたものである。講式は儀礼のために作られたテクストであるが、それはどのような〝場〟において唱えられたのであろうか。また修辞を凝らして作文される講式については、法会という宗教実践を通してどのように作者の思想と信仰を表明したのかを考える必要がある。研究代表者は2022年度の研究では、頼瑜が『真俗雑記問答鈔』における覚鑁撰『舎利供養式』に関する記述に注目し、儀礼テクストとしての講式が、如何にして宗教実践と連動して受容されたのか、またその信仰の在り方が頼瑜とその周辺においてどのように展開され、継承されたのかを検討した(「密教浄土教に展開する舎利と宝珠―覚鑁の講式とその儀礼空間」国際ワークショップ「日本中世のことば・ほとけ・図像」、「宗教儀礼テクストに展開する実践と信仰の複合性―覚鑁撰『舎利供養式』をめぐって」国際シンポジウム「宗教遺産をめぐる真正性―宗教遺産テクスト学の発展的展開」)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
頼瑜とその法流の拠点である根来寺に関する今までの研究成果により、根来寺が果たした歴史的・地域的・宗教的な役割を広い視野から検討の基盤が整えられ、頼瑜と彼の真言教学に関しても多く論じられてきた。しかしその一方で、歴史と教理研究以外の考察はいまだ十分な研究が進められておらず、解決すべき課題が多く残されている。現状の問題点と課題として次のように挙げられる。頼瑜とその教学に関して、教理研究に集中する傾向がみられる。頼瑜はその生涯をかけ、真言密教の教相と事相の両面にわたり百七部四百五十余巻(『諸宗章疏録』)の著作を遺したと伝えられる。それらは頼瑜教学の体系的な形成を示す所産である。その著作の成立と書写、加持身説法などを中核とする頼瑜教学の理論構築、事相の伝授とともに教相の裏付けを示すという頼瑜抄物の特徴が解明されてきた。しかし、頼瑜とその周辺の宗教家への検討は教理研究という次元にとどまることが多い。そのような研究傾向のもとでは、中世という宗教変革期における頼瑜法流の全体像、或いは一種の宗教文芸表象としての宗教家の思想、及びその活動の本質が見えなくなってしまう。それを解決するには、教理研究の成果を踏まえながら、宗教家の宗教実践を全面的かつ詳細に分析し、頼瑜における真言教学の体系が形成される要因とその意義を示す必要がある。 そのような課題を解決するため、2022年度の研究活動において研究代表者は頼瑜が継承した大伝法院流における宗教実践に焦点を当て、覚鑁が残した儀礼テクストおよびその実践活動が頼瑜とその周辺にどのように相承したのかを論じた。また、真言密教の教相と事相が儀礼テクストを通して実践活動とともに法流内において頼瑜の真言教学における形成過程を明らかにした。以上のように、今年度の研究活動はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究成果を踏まえながら、2023年度に次の二つの課題の解決を念頭に置きたい。①儀礼テクストへの分析不足の問題。頼瑜およびその法流に関して教理研究に集中する傾向がもたらした結果の一つとして儀礼と関わる宗教テクストへの認識・分析不足の問題が挙げられる。頼瑜とその周辺が遺した厖大な聖教において、法流伝授の抄物や竪義・談義の場で生まれる教相類への検討は当然であるが、同時に唱導などの儀礼テクストも重要な存在として無視できないものである。②中世顕密仏教における頼瑜教学の位置づけの不明瞭さ。頼瑜が生きた中世日本は、末法到来思想に影響されながら、武家勢力の台頭とともに社会的不安が高まった変革期である。宗教界では、法然・親鸞・一遍・栄西・道元・日蓮など、いわゆる鎌倉仏教を代表する開祖たちの活躍が見られると同時に、従来の仏教諸宗より、貞慶・明恵・覚盛・叡尊・忍性など戒律復興運動や一般民衆救済への関心を示す宗教者もあらわれた。これまでの研究では、頼瑜とその教団に関して、鎌倉仏教との相違は認められつつも、その要因についてはいまだ明確になってはいない。以上の課題を解決するため、具体的な作業は次の様である。
1、既存資料の分析。『真俗雑記問答鈔』における仏教説話の再考を通して、頼瑜とその周辺を取り巻く宗教環境を考察しながら、同時代に成立した他の仏教文学作品との比較を通して、宗教文芸の視座から頼瑜における真言教学の特質を検討する。 2、寺院聖教の調査。真福寺大須文庫など実行可能な調査から優先的に行い、頼瑜をはじめとする中世日本の真言学僧が綯い交ぜたネットワークを究明することを試みる。 3、1と2から得られた情報をもとに、根来寺を中心として活動していた頼瑜およびその法流の中世日本における位置付けを明らかにする。
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