研究実績の概要 |
本研究課題は最適ドープ銅酸化物高温超伝導体における電荷秩序・素励起を酸素K吸収端共鳴非弾性X線散乱(RIXS)によって観測することを目的としている。実施計画に添い、最適ドープ3層系銅酸化物Bi2223のRIXS実験をTaiwan Photon Source 41Aにおいて実施した。初年度に行なった運動量移行q=(H,0,L)方向の測定結果を踏まえ、最終年度にはq=(H,H,L)方向のプラズモンの分散関係を決定した。ブリルアンゾーン中心での分散関係にはエネルギーギャップがあり、かつ分散の傾きがq=(H,0,L)方向よりも緩やかであることがわかった。 この観測結果を理論的に理解するため3層のCuO2層が繰り返された構造を持つ理論模型の電荷感受率を乱雑位相近似で計算した。3層の自由度に対応し3本のプラズモンの分散関係が現れるが、1本にはエネルギーギャップがなく、残りの2本にはギャップが存在する。角度分解光電子分光の結果から導かれている面内の電子のホッピング項を用い、3層間の電子ホッピングとクーロン相互作用の強度を調整することで、強度の最も強い2番目の分散関係が実験結果をよく再現することがわかった。一方3層のCuO2面のみを取り出した模型に対してはギャップのある分散関係が得られず、実験との不一致が見られた。これはプラズモンの分散関係に長距離のクーロン相互作用の効果が顕著に現れることを示す。 高温超伝導機構との関連をより系統的に調べるため、銅酸化物で最高の超伝導転移温度を示す水銀系銅酸化物Hg1223に測定対象を拡大した。試料劈開面に不均一性が生じる困難があるものの、同様のプラズモン分散関係の測定に成功した。
|