研究課題/領域番号 |
22K14011
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
藤代 有絵子 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (00883646)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | スピン / トポロジカル / らせん磁性 / 相転移 / インダクタ / ベリー位相 / 収束イオンビーム |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、電子スピンが固体中で作る非共面的な構造(立体角を張る)とその揺らぎを制御し、新たな電気輸送特性の探索を行う。特に、螺旋スピン構造の電流駆動がもたらすインダクタンス効果や、磁性が外部パラメーター(圧力など)の制御によってゼロ温度で消失する量子相転移近傍での輸送特性に着目する。従来の研究で着目されてきた静的な長距離秩序の枠組みを超えて、スピン構造のダイナミクスがもたらす新規現象についての学術的理解を深めることを目指す。
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研究実績の概要 |
今年度はまず、らせん磁気秩序とトポロジカル磁気構造を有するカイラル磁性体FeGeにおいて、長距離磁気秩序が消失する圧力誘起量子臨界点(~19 GPa)とその近傍における特異な電荷輸送特性の探索を行った。最大で50 GPaにも及ぶ高圧力下での電荷輸送特性の測定には様々な技術的困難が伴うため、今年度は特にダイヤモンドアンビルセル(DAC)の技術習得に取り組み、収束イオンビーム(FIB)技術も組み合わせることで電極形成を行うなどの工夫をし、初めて50 GPa程度まで磁気抵抗・ホール抵抗を測定することに成功した。その結果、金属絶縁体転移の兆候に加えて、量子臨界点の直上では時間反転対称性を破るようなゼロ磁場での異常ホール効果の観測に成功した。同じ結晶構造をもつMnSiの圧力誘起相転移近傍では、磁場誘起のトポロジカルホール効果しか観測されておらず、これは特筆すべき違いと言える。一方、スピンダイナミクスのベリー位相に由来する創発インダクタ効果についても探索を行った。複雑ならせん磁気構造を持つEu化合物において巨大な創発インダクタ効果を観測し、ミクロな磁気構造の変化に応じた符号変化などを観測することに成功した。特に、これまで報告されている創発インダクタ効果は主にインダクタンスの符号が負であったが、今回の物質では正のインダクタ効果が広い温度・磁場領域において見えているため、創発インダクタの符号の起源を探索する上で興味深い対象物質となることが期待される。加えて、いくつかの強磁性体においても、転移温度近傍のスピン揺らぎに由来した創発インダクタ効果を観測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
FeGeの量子臨界点近傍においては、同じ結晶構造をもつMnSiとは質的に異なる新たな振る舞いを発見することに成功している。また、50GPaまでの圧力下電気抵抗の測定環境を整えたことにより、今後さまざまな量子物質の超高圧下において新しい量子伝導特性の探索を行う舞台を整えることができた。また、創発インダクタに関しても、従来のらせん磁性体の枠組みを超えて、初めて強磁性体でも創発インダクタを観測するなど、想定以上の進捗を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
FeGeの圧力誘起量子相転移については、高圧下の結晶構造解析と、その結果を用いた電子構造計算を行うことで、得られた電荷輸送特性を併せて包括的な議論を行なっていきたい。また、創発インダクタについても、共鳴X線散乱の実験によってらせん磁気構造の詳細を明らかにし、得られた創発インダクタの特異な符号変化や周波数依存性と併せて議論をしてきたい。強磁性体の転移温度直上で得られた創発インダクタについては、その普遍性を確かめるために様々な結晶格子をもつ物質で検証を行いたい。また、反転対称性を破る強磁性体に着目し、スピン軌道トルクでのみ発現する創発インダクタの探索を行い、周波数特性の改善にも挑みたい。
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