研究実績の概要 |
本課題では、始めに、多様な反強磁性秩序を生じるイルメナイト型ATiO3 (A = Mn, Fe, Co, Ni)の単結晶性薄膜を実現するために、パルスレーザー堆積法による薄膜堆積実験を実施した。まず、MnTiO3について、基板の温度や蒸着源に照射するレーザー強度などの堆積条件を最適化し、イルメナイト型構造の単結晶薄膜が成長する条件を確立した。次に、MnTiO3で求めた堆積条件のもとで、ATiO3 (A = Fe, Co, Ni)の堆積実験を実施したところ、全ての物質でイルメナイト型構造の原型であるコランダム型構造の単結晶性薄膜が成長することが分かった。最終年度において、X線回折シミュレーションと実験結果を比較して詳細な結晶構造を評価したところ、イルメナイト型結晶構造に特有の陽イオン配列が十分発達してないことが分かった。LiNbO3型構造など、別の陽イオン配列の可能性の検討が今後の課題である。 また、イルメナイト型構造をもつ新奇量子磁性体候補物質であるMgIrO3の実現を目標に、Mg-Ir-O薄膜の堆積実験を実施した。堆積条件を変調して堆積したMg-Ir-O薄膜を比較したところ、多くの堆積条件で、MgOおよびIr(またはIrO2)からなる混合多結晶薄膜が形成されることが分かった。堆積条件探索の過程で、特定の堆積条件で、先行研究で報告されていない新規Mg-Ir-O結晶相が成長することを発見した。電子顕微鏡での観察や結晶学的考察によって、新規Mg-Ir-O結晶相を、陽イオン秩序が乱れた逆スピネル型Mg2IrO4と推定した。最終年度においては、Mg-Ir-O堆積条件探索の結果に基づき、イルメナイト型MgTiO3層とMg-Ir-O層を交互に堆積することで、イルメナイト型MgIrO3を人工超格子中で安定化させる実験を実施した。現在、人工超格子の構造と物性を評価している。
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