研究課題/領域番号 |
22K14651
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
米田 勇祐 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 助教 (60903721)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 単一分子分光 / 蛍光相関分光法 / 光応答性タンパク質 / 振動分光 / 構造ダイナミクス / 蛍光相関分光 |
研究開始時の研究の概要 |
光応答性タンパク質の多くは発色団分子が構造を変化させることで機能を発現するため、その揺らぎのダイナミクスを捉えることは重要である。しかし、通常の振動分光ではタンパク質骨格のアミノ酸残基に由来するバックグラウンド信号が強く、発色団由来の信号を選択的に観測することは難しい。さらに、タンパク質は常に揺らいでいる周囲環境の中で複数の立体構造異性体あるいは化学種として統計的に存在するため、それらの遷移ダイナミクスを捉えることは困難である。本研究では電子共鳴を利用した振動分光と蛍光相関分光を組み合わせることで、マイクロ秒~ミリ秒で進行するタンパク質発色団の構造揺らぎダイナミクスを明らかにする。
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研究実績の概要 |
本年度は蛍光検出赤外相関分光測定装置の構築を目的として、研究グループに新しく導入された高繰り返しYbレーザーを光源とした自作の顕微システムの構築を行なった。具体的には、共焦点配置の検出光学系を構築し、単一光子感応型検出器を組み合わせることで、単一分子レベルの蛍光検出を行うためのシステムを構築した。蛍光励起光源として、繰り返し周波数10 MHzのYbレーザーの第二高調波(515 nm, 260 fs)を用いた測定において、標準蛍光試料であるローダミン6Gの希釈溶液の蛍光相関を単一分子レベルで取得することに成功した。 さらに、単一光子列データの効率的な取得・解析のため、Pythonによって新しい検出プログラムを構築した。当グループではこれまで測定装置の制御プログラムとして主にLabVIEWを用いていた。しかし、LabVIEWでは単一光子列データを効率よく取得することが困難であったため、Pythonによるプログラムに移行した。光学遅延装置の制御もPythonによって行えるようプログラムを改良したため、これらを組み合わせることによって、ポンプ・ダンプ実験、あるいは干渉計を用いた測定への応用も可能である。 また、タンパク質発色団の構造揺らぎを示すモデル系として着目している光合成光捕集タンパク質のpHに依存した非光化学的消光ダイナミクスを過渡吸収分光によって計測した。その結果、低いpHにおいて消光が顕著に見られることがわかった。過渡吸収スペクトルの時間変化から、この消光ではクロロフィルの会合状態の変化が重要な役割を果たしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はローダミン6Gの蛍光相関を単一分子レベルで取得することに成功した。単一分子レベルでの蛍光相関の検出は、揺らぎ計測の根幹となる基礎的技術であるため、当グループの新規レーザーシステムでこの検出に成功した意義は大きい。 さらに、光合成光捕集タンパク質のpHに依存した非光化学的消光ダイナミクスを確認することができた。pH変化に伴う消光はコントロール実験の条件として理想的であり、蛍光検出赤外相関分光法装置を応用することができる理想的な系であることが確認できた。 以上のように新規レーザーシステムからゼロベースで蛍光相関分光測定装置を構築し、さらにタンパク質発色団の構造揺らぎを示すモデル系のメカニズムに関する知見を得ることに成功しているため、本研究課題は順調に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、蛍光検出赤外相関分光法装置の構築を目的とし、中赤外パルスを発生させるため、自作の同軸光パラメトリック増幅器の開発を行う。申請者はこれまで、数kHz程度の繰り返し周波数を持つ再生増幅器を光源とした自作の光パラメトリック増幅器を構築してきた。しかし、数MHz程度の高い繰り返し周波数を持つレーザーでは、種光として用いる白色光を安定的に発生させる条件・技術が数kHzの場合と異なることがわかった。したがって、今後は数MHzの高繰り返しレーザーで自己位相変調を安定的に駆動することができる条件を検討していく。 さらに、蛍光検出による振動スペクトルの測定のため、干渉計の構築を行う。単一光子感応型検出器と光学遅延ステージを組み合わせた測定プログラムはすでに構築しているため、中赤外パルス発生が実現次第、干渉計を用いた蛍光検出実験を行うことができると考えられる。 蛍光検出赤外相関分光法装置が完成すれば、上記光合成光捕集タンパク質の消光機構における具体的な構造変化を明らかにする。
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