研究課題/領域番号 |
22K15274
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分47030:薬系衛生および生物化学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三宅 崇仁 京都大学, 薬学研究科, 助教 (70836866)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 体内時計 / 発現制御機構 / 翻訳 / 体温 / uORF |
研究開始時の研究の概要 |
現代化に伴い増えた慢性時差勤務等は、体内時計と外部環境サイクルとの間に同調不良を生み、それが生活習慣病リスク上昇の起因のひとつとなっている. しかし、外部環境サイクルによる生物時計の位相合わせの仕組みには未だ不明な点が多い. その背景には、これまでmRNA転写制御を介した生物時計調律機構ばかりが注目されてきた経緯がある. そこで本研究では、体内の生化学反応に大きな影響を与える物理的温度、翻訳制御エレメントupstream open reading frame(uORF)に着目し、タンパク質量を規定するmRNA翻訳速度の制御の生物時計調律における役割を、細胞・臓器・動物個体レベルで明らかにする.
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研究実績の概要 |
現代化に伴い増えた慢性時差勤務等は、体内時計と外部環境サイクルとの間に同調不良を生み、それが生活習慣病リスク上昇の起因のひとつとなっている。しかし、外部環境サイクルによる生物時計の位相合わせの仕組みには未だ不明な点が多い。特に、われわれ哺乳類は恒温動物に分類されるが、その体温は四六時中一定ではなく、1日に1回ゆるやかに変化する概日リズムを有することが知られている。体温の概日リズムは脳の中枢時計である視交叉上核が規定しており、全身に散らばる37兆個の細胞のリズムを整えるために必要だと考えられている。しかし、このたった1-3℃という微細な幅で振動する体温のリズムが、生物時計にどのような影響を与えるのか、その分子メカニズムはほとんどわかっていないのが現状である。その背景には、これまでの体内時計の研究では主にmRNA転写を介した遺伝子発現制御に注目が集まり、転写後の体内時計分子発現制御機構、とくにタンパク質合成過程である翻訳に関してはほとんど研究されてこなかった経緯がある。翻訳過程の速度制御を行う重要なエレメントの一つにupstream open reading frame(uORF)が知られているが、体内時計の振動制御にuORFを介した翻訳速度調節機構が関わるかどうかは明らかではなかった。そこで本研究では、体内時計コア振動子に着目し、体温振動がPer2発現量や生物時計を制御するメカニズムの解明およびその細胞・臓器・動物個体レベルでの意義を明らかにするための研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画に沿って研究を実施した結果、予想以上に早く研究が進展し、原著論文として本成果を発表することができた(Miyake et al., Cell Reports, 2023)。具体的には、体内時計コア振動子であるPer2のmRNAにuORFを見つけ、これがPer2 mRNAの翻訳量を外部環境温度に合わせて制御する翻訳制御エレメントとしての機能をもつことを見出した。Per2温度応答は、たった1℃の温度上昇でも観察され、このような微小温度変化に対しては、mRNA転写量の変化は見られず、タンパク質量だけが変化することがわかった。Per2のuORFはuORFの中でも特殊な、開始コドンと終止コドンの2コドンしか有さない最小単位uORF(minimal uORF, m-uORF)であり、このminimalな構造が、Per2の翻訳温度応答に重要であることを明らかにした。さらに、化合物ライブラリスクリーニングにより、本制御機構の上流にはPI3Kがあること、Per2 uORFが無い遺伝子改変マウス(本研究課題で作出)では、皮膚創傷治癒速度の概日リズムが消失することを発見した。これらの結果より、Per2 uORFを介した生理的微小温度変化による生物時計調律機構は皮膚をはじめとした臓器・動物個体のホメオスタシス維持に重要であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を進める過程で、Per2と同様に、PI3K依存的に温度に応答するuORFを約60種類発見した。今後はこれらの機能を見出すことによって、生理的微小温度変化が生命にもたらす新たな役割について明らかにしたいと考えている。また、動物を用いた実験において体温の細胞への影響を調べるためには、動物体温を制御するためのツールが必要であることを痛感した。そこでは今後は、体温の細胞に対する影響をin vivoで確かめるため、マウス体温を人為的に操作するための手法の確立を目指したい。
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