研究課題/領域番号 |
22K15663
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分52010:内科学一般関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
長屋 聡美 金沢大学, 保健学系, 助教 (00882309)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 異常プロトロンビン / アンチトロンビン抵抗性 / トロンボモジュリン抵抗性 / プロトロンビン / トロンボモジュリン結合障害 / 血栓症 |
研究開始時の研究の概要 |
血液凝固因子トロンビンは血管内皮細胞上のトロンボモジュリンと結合し、抗凝固因子のプロテインCを活性化することで、抗凝固作用を発揮する。一方で、トロンボモジュリン結合障害(TMR:thrombomodulin resistance)を有する異常プロトロンビンが血栓症の原因となるのか、またその血栓形成の分子学的機構は未だ明らかではない。そこで本研究では、TMR型異常プロトロンビンの血栓形成機構をin vitroおよびin vivoで解析する。本研究によりTMR型異常プロトロンビンの血栓形成機序が解明されれば、現時点では原因不明とされる血栓症の診断や新しい治療薬の開発などに貢献できると期待される。
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研究実績の概要 |
今年度は、野生型(WT)および、アンチトロンビンとの結合親和性低下(ATR)およびトロンボモジュリンとの結合親和性低下(TMR)を示すと予測された変異型プロトロンビン(M380T、R431H、R596L)を作製した。プロトロンビンはNi-NTAを用いたHisタグ精製およびGla化プロトロンビンのみを精製するためバリウム吸着を行ない、CBB染色にて高純度のリコンビナントプロトロンビンを精製できていることを確認した。 凝固時間法による活性測定では、WTは血漿由来ヒトプロトロンビンと同等の活性を有し、WTを100%とするとM380Tは9.0%、R431Hは37.7%、R596Lは44.5%であり、全ての変異体において出血傾向の性質を示した(p<0.0001)。トロンビン特異的な蛍光基質を用いたアミド分解活性測定法を確立し、WTを100%としたところ、M380Tは63.9%(p<0.0001)と有意に低下したが、R431Hは88.9%、R596Lは107.5%とWTと同等であった。ここまでの結果より、M380Tは出血傾向を呈することから、ATR・TMRの解析からは除外した。 ウエスタンブロットで検出したトロンビンーAT複合体(TAT)形成量は、WTを100 %としたところR431Hは100 %であったが、R596Lは7.5 % しか形成されなかった(p<0.01)。さらに、合成基質法の測定系を用いて、AT存在下での残存トロンビン活性を測定した。WTおよびR431Hでは反応時間の経過に伴い残存トロンビン活性が低下した。一方で、R596Lでは残存トロンビン活性がほとんど低下せず、WTに比べ有意に高い残存トロンビン活性を維持していた。以上より、R431HはATRはほとんど有していないと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Ni-NTAおよびバリウム吸着を用いてリコンビナントプロトロンビンの精製を行うことができたが、実験に用いる量として十分ではなかったため、培養量を増やし、精製の方法や条件を検討する必要があった。現在は安定して高収量のプロトロンビンをできるプロトコルが確立した。 また、サンプル中のリコンビナントプロトロンビンをトロンビンに活性化する活性化剤として、リン脂質・ウシ活性化第X因子(FXa)・ウシ活性化第V因子(FVa)・カルシウムイオン複合体を使用しているが、リン脂質の種類(フォスファチジルコリン・フォスファチジルセリン・フォスファチジルエタノールアミンのうち2種または3種混合)によっても反応性が異なることが判明したため、複数のリン脂質を用いて活性化条件を検討を行う必要があった。また、リン脂質の条件検討と同時並行し、活性化剤中のウシFXaおよびウシFVaの至適濃度、pH、イオン強度などの条件検討を行ない、最適な活性化条件を設定した。
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今後の研究の推進方策 |
精製した野生型および変異型リコンビナントプロトロンビンを用いて、分子間相互作用装置Biacoreを用いたATあるいはTMとの親和性評価を進める。本実験に関しては、Biacoreを所有している北陸先端科学技術大学院大学の高村 禅教授とミーティングを行なっており、準備段階に入っている。まずはATRを示すことが報告されているR596LでATとの親和性低下が検出できることを確認した上で、R431HのATRを評価する。その後、TMとの親和性に関しても同様に条件検討を行い、R431HのTMRの有無を評価する。 また、金沢大学が保有するFLUOROSCAN ASCENTを用いて、包括的な血栓形成能を評価できるトロンビンジェネレーションアッセイ(TGA)を行うことができると判明し、現在セットアップ中である。患者血漿およびリコンビナントプロトロンビンを用いたTGAを行い、異常プロトロンビンの血栓形成能を評価する予定である。 In vivoの実験に関しては、TMRを示した変異型プロトロンビンノックインマウスの作製に着手し、マウス血漿中の凝固活性化マーカー(TAT、可溶性フィブリン、フィブリン/フィブリノゲン分解産物、Dダイマーなど)の測定や、TGAを用いた包括的な血栓形成能を評価する。さらに、マウスの血管を含む組織を採取し、血管内血栓の有無、フィブリン沈着部位・沈着量を組織標本にて評価する。これらを通して、in vivoでのTMRによる血栓形成機構の解明を目指す。
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