研究課題/領域番号 |
22K18904
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分26:材料工学およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
村上 恭和 九州大学, 工学研究院, 教授 (30281992)
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研究分担者 |
玉岡 武泰 九州大学, 超顕微解析研究センター, 助教 (00871229)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 電子顕微鏡 / 磁性材料 / 反磁場 / 保磁力 / 永久磁石 |
研究開始時の研究の概要 |
電子線ホログラフィーの観察対象は磁束密度Bであり、磁石材料の研究開発で重視される反磁場の直接観測は困難であった。この問題を解決するため、TEMで決定される磁化ベクトルの方向(Nd-Fe-B系では結晶のc軸と一致)から磁化M由来の位相成分を算出したうえで、観察結果(磁束Bに由来)との差分により磁場Hの情報を抽出する。さらに磁化から想定されるベクトルポテンシャルをもとに、試料外部の漏洩磁場に起因する位相成分を計算し、上記の磁場Hとの差分から「試料内の反磁場」の情報を獲得する。技術の応用として、複雑な内部組織を示す焼結磁石の反磁場分布を明らかにし、不要な磁化反転を誘発する脆弱箇所の特定を試みる。
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研究実績の概要 |
本研究は、透過電子顕微鏡法(TEM)の一種である電子線ホログラフィー、即ち薄片化した試料を透過した電子の位相変化を計測できる技術を高度化し、磁石材料の研究開発における重要因子である試料内の反磁場を可視化できる手法の構築を目指すものである。これまで電子線ホログラフィーは、焼結磁石における磁区構造の観察や、粒界領域の磁気計測等に応用され重要な成果を収めてきたが、同手法で直接評価し得るものは磁束密度である。言い換えれば、磁束密度の構想要素である試料内の磁化、試料内の反磁場、ならびに試料外の漏洩磁場を個別に評価することは困難であった。この問題を解決するために、令和4年度は反磁場情報の抽出に関わる基盤技術を整備するため、以下の研究を実施した。 (1) 仮想試料を用いた手法の構築・検証: ネオジム磁石の主相であるNd2Fe14B相に注目し、角柱状に成形したNd2Fe14B単結晶試料(計算機で作成した仮想的試料)に対する反磁場成分の抽出プロセスを考案した。具体的には、TEM観察と電子回折の実験で決定できる磁化の方向(磁化容易軸に対応するNd2Fe14B相のc軸方向)と試料形状をもとに、注目する試料に対する磁化由来の位相変化と、試料外の漏洩磁場由来の位相変化を算出する要素技術を開発した。さらにこれらの算出データを、電子線ホログラフィーで決定可能な磁束由来の位相データから除することで、目的とする反磁場由来の位相情報を抽出できることを示した。 (2) 単結晶の実試料を用いた手法の検証:上述した手法を実試料(集束イオンビーム装置を用いて薄片化したNd2Fe14B単結晶)の解析に適用し、技術の検証を行った。電子線ホログラフィーの実験データから抽出した反磁場由来の位相データは、当該試料に対するマイクロマグネティクス計算から求めた結果とも整合し、手法の妥当性を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した二つの研究項目、即ち(1) 仮想試料を用いた手法の構築・検証と、(2) 単結晶の実試料を用いた手法の検証の双方において、当初の計画通に研究を進めることができた。このうち(1)仮想試料を用いた手法の構築・検証については、試料外の漏洩磁場により入射電子が受ける位相変化を計算する手段として、ベクトルポテンシャルの線積分に基づく方法と、磁束密度の面積分に基づく方法の両方を評価した。基盤技術の整備を重視した本年度の研究では、解析が直感的であり、かつ複雑な試料形状に対する利便性などの理由から、磁束密度の面積分を繰り返す解析プロセスを強化した。これらの基盤技術は次年度以降の研究においても、有効に活用できるものである。(2)単結晶の実試料を用いた手法の検証については、集束イオンビームで薄片化したNd2Fe14B単結晶のデータ収集(電子線ホログラフィーで取得される磁束密度由来の位相データの取得)を進めた。集束イオンビームを使って作製した試料にも形態的な不均一さが残るが、これら試料形態に関わる情報はTEM、電子回折、電子エネルギー損失分光法などの技術を組み合わせることで高い精度で決定できることが実証された。これらの形態情報をもとに、実試料に対する磁化由来の位相変化の計算、漏洩磁場由来の位相変化の計算、さらにはマイクロマグネティクスによる局所磁場情報のシミュレーションを精緻に実施できることも示された。以上により、本年度の研究成果は要素技術の整備構築として十分な実績であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究実績を踏まえ、次年度は、当該技術で取得された反磁場情報の精査を行うとともに、本解析の磁石研究に対する意義・貢献を一層明確にする。さらには、本技術を単結晶試料に留まらず多結晶試料に対しても展開し、技術の汎用性の強化を試みる。具体的な研究項目として、以下の内容を想定する。 (1)多結晶の実試料を用いた手法の検証:Nd2Fe14B多結晶試料(粒径が1ミクロンオーダーの商用磁石)を解析し、実用材料が示す複雑な内部組織と反磁場の関係を明らかにする。実験結果は、マイクロマグネティクスの計算結果と比較し、焼結磁石の脆弱箇所に関わる考察を深める。なお、多結晶試料の解析は、令和4年度に実施した単結晶試料の解析に比べて格段に複雑となり、データ抽出に関わるアルゴリズムの改良が必須である。これについては、前年度に多用した磁束密度の面積分を繰り返す手法に加えて、ベクトルポテンシャルの線積分を実施した直接的な位相計算の活用も検討対象に含め、技術の改良を図る。 (2)反磁場分布の温度依存性の検証:上記の手法で得られた結果(焼結磁石内の反磁場分布に関わる実験データ)の考察を深めるため、顕微解析に基づく焼結磁石の磁気的脆弱箇所の特定を進めるとともに、同磁石における保磁力の温度依存性等に関わるデータとの対応付けを行う。 (3)研究の総括:本研究における技術の開発、ならびに材料学的な成果を総括する。
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