研究課題/領域番号 |
22K19067
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分35:高分子、有機材料およびその関連分野
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
荒谷 直樹 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (60372562)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | ナノカーボン / 超分子化学 / 発光 / 有機合成 / 有機半導体 / 曲面π共役系 |
研究開始時の研究の概要 |
ベンゼン環を縮環して三次元に組み上げた「ナノカーボン」材料は無機材料と比較しても桁違いに優れている。本研究課題では、デザイン性に優れた球状ナノカーボンを自在構築し、これまで有機分子デバイスで利用されているフラーレン誘導体が本目的分子に置き換わるような、フラーレン化学の革命的な一歩を目指す。まずボウル型分子コラニュレンを出発物質として、100個のpi電子を球状に配置する分子設計・合成戦略を確立する。
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研究実績の概要 |
ゲスト分子の取り込み可能なサイズの内部空間をもつケージ状分子を合成する戦略として、通常は合成の容易さから超分子法や金属配位が用いられることが多い。しかしながら可逆的な弱い相互作用を用いて構築するケージ状化合物は溶媒などの外部環境によっては安定性を保つことが難しい。 本研究では超分子的相互作用より強固である共有結合からなるケージ状分子の合成に挑戦した。広いπ共役系を有するお椀型分子のコラニュレンを鍵出発物質として対面型二量体にすることで,ボトムアップ的に球形ナノカーボンを短工程で構築し,分子設計自由度の高いケージ状分子を合成できた。本ケージ状分子をc-cageと名付けた。c-cageは修飾位置の違いによるラセミ体とメソ体が約1:1の混合物として得られた。本研究ではこれまでに,コラニュレンケージの合成法の確立,ラセミ体とメソ体の分離法の確立,単結晶エックス線構造解析による構造の確定、ラセミ体の光学分割,内包可能な分子の調査,内包分子に依存する物性の探索,キロプティカル特性の測定を行った。共有結合によって構築したケージ状化合物は化学的に安定であるため,内包分子の化学変換やケージそのものの誘導体化が期待できる。また,熱分析から高温でケージ分子が分解するまでゲスト分子はケージ中に保たれることがわかった。内部に取り込まれた分子はバルクの状態とは異なり孤立した(自己同士の相互作用のない)状態にあるため、今後赤外分光測定などで結合の状態の解析をする。さらに,P体M体を光学分割したエナンチオピュアなc-cageの円偏光発光 (CPL) などのキロプティカル物性を検討した。有機物としては比較的大きな異方性因子g値が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
共有結合によって構築したケージ状化合物は超分子ケージと比べて化学的に安定であるため,内包分子の化学変換やケージそのものの誘導体化に好適である。これまでにコラニュレン誘導体のホモカップリングにより,ケージ状分子を合成し,反応条件を詳細に検討することで単離収率が最高17%まで改善された。生成物はラセミ体とメソ体の混合物となり,ケージ内には反応に用いた溶媒分子がゲスト分子として取り込まれる。現在までに,9種類のゲスト分子の導入に成功し,それぞれのラセミ体とメソ体の分離およびラセミ体の光学分割に成功した。各種物性測定を行った結果,興味深いことに包接分子の物性はゲスト分子にほとんど依存しないことがわかった。さらに熱分析の結果、本ケージ状分子は高温でもゲスト分子が逃れられない,完全に閉じ込めるホスト分子であり、カルセランドの一種であることがわかった。 コラニュレン単体は蛍光がほとんど観測されないが,ケージ中に蛍光分子を内包することで発光分子となる可能性がある。また,本ケージ状化合物はキラルになり,蛍光発光体としての利用と合わせて,円偏光発光(CPL)などのキロプティカルな性質が期待できる。現在のところ、発光量子収率が高くケージ内に導入できるサイズの蛍光分子を含んだ包接化合物の合成には成功していない。また,ケージ内部に熱や光など外部刺激によって反応する分子を導入し,ケージ内で有機反応する(分子フラスコとしての利用)ことにも今後挑戦する。 蛍光分子の導入や分子フラスコとしての利用の難しさは,ケージの内部空間が小さいためにゲスト分子の大きさの許容範囲が狭いこと,反応温度が高くゲスト分子自体の分解や,ゲスト分子による反応への阻害などが考えられるため、引き続き反応条件の最適化や架橋ユニットの伸長を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況でも記述したとおり、蛍光分子の導入や分子フラスコとしての利用の難しさは,ケージの内部空間が小さいためにゲスト分子の大きさの許容範囲が狭いこと,反応温度が高くゲスト分子自体の分解や,ゲスト分子による反応への阻害などが考えられるため、今後はケージサイズの拡張を試みる。具体的には架橋ユニットであるビフェニレンの伸張や,コラニュレンをコロネンやヘキサベンゾコロネンに変更し,拡張型ケージ状分子の合成に挑戦する。内部空間を広げたケージ状分子へのより大きなゲスト分子や酸化還元活性な錯体の導入によって、内部分子によるケージ状分子の物性制御を目指す。 また、通常の条件では生成しても水や酸素に触れて失活する高反応性の化学種の発生と単離を目指してケージ内で有機反応する(分子フラスコとしての利用)ことを挑戦する。予備的には、反芳香族性化合物のシクロブタジエンの発生・単離を試みたが,これまでのところケージ中に内包できていない。 対面型コラニュレン二量体をホスト分子として用いることの利点としてフラーレンなどの球形化合物のゲスト取り込みが挙げられる。ほぼ100%の効率で三重項に項間交差するフラーレンによる一重項酸素増感反応を生体内で行うことを目的として、水溶性対面型コラニュレン二量体の合成にも挑戦する。スイスのETH Zurichの山越教授との共同研究により、既にPEG基を導入する合成ルートは確立しつつあり、今後、水中でのホストーゲスト相互作用の解析を行う。
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