研究課題/領域番号 |
22K19155
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分38:農芸化学およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
土居 克実 九州大学, 農学研究院, 教授 (40253520)
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研究分担者 |
本庄 雅則 九州大学, 医学研究院, 准教授 (90372747)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
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キーワード | プラズマローゲン / 通性嫌気性細菌 / Enterococcus / Lactococcus / Bifidobacterium / Clostridium / 大腸菌 / 腸・脳・微生物相関 / 嫌気性菌 / ヒト神経変性疾患 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、ヒトの各器官に生息する嫌気性細菌を対象として、プラズマローゲン(Pls)生合成に関与すると推測される遺伝子群を探索しその制御機構を明らかにすると共に、Plsの生産の有無と生産されるPls種を比較・検討する。また、Pls非生産性でヒト腸管非常在性嫌気性細菌ゲノムとの比較から、これら細菌のヒトでの生息域とPls生産性との関連性について追究する。これらの結果から明らかになったPls生合成経路を利用し、Pls高生産性株や異なるPls種生産株の作出を目指す。さらに、腸脳相関における腸内微生物叢の意義を明らかにし、Pls生産株の経口摂取による脳病態回復に繋がる基盤技術開発を目指す。
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研究実績の概要 |
ビニルエーテル結合を含むグリセロリン脂質であるプラズマローゲン(Pls)は、殆どの哺乳類細胞に存在し、組織中の総リン脂質の約20%を占める。Plsは膜構造形成や抗酸化作用など様々な重要生理機能を持ち、哺乳類では不可欠なリン脂質である。Pls生産はClostridium属やBifidobacterium属といった偏性嫌気性菌でのみ報告され、C. perfringensでPls生合成遺伝子(plsA,plsR)が同定されたのみであったが通性嫌気性菌の乳酸菌ゲノム上にも存在することが判明した。そのため、Plsを生産する乳酸菌株の探索とより効率的にPlsを生合成する培養条件の検討を目的とした。 主に乳酸菌株を含む53株から、Enterococcus faecalis K-4や Lactococcus lactis ATCC BAA-493株などのPls生産乳酸菌を同定した。また、乳酸桿菌よりも乳酸球菌でPls生産株が多く見られた。これらのうち、最も生産性の高かったE. faecalis K-4株から単離したplsAでPls非生産の大腸菌BL21(DE3)株を形質転換したところ、Pls生産能を付与することができ、plsAは大腸菌のPls生合成にも重要な機能を持つことが示唆された。さらに、植物性タンパク質を添加したラクトースを糖源とする培地を用いた培養では、K-4株のPls生産量が向上することが判明した。 他方、嫌気培養で得られたBAA-493株菌体からは好気培養した菌体よりも多くのアルデヒドが検出され、MRS培地での30℃培養の場合、嫌気培養菌体からは好気培養菌体の倍以上のアルデヒドが検出された。TYG培地で培養した菌体からはアルデヒドがほとんど検出されなかったことから培養条件の違いによって、Pls生産量にも変化が生じ、特に培地成分がPls生合成に与える影響が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
51株のLactobacillales目菌脂質を酸加水分解後、HPLC解析を行い、Pls高生産株を選抜できた。このうち、K-4株に着目して全ゲノムシーケンスを行ったところ、Clostridium属で推定されているPls生合成経路のうち、PlsPG、PlsCLを生産している可能性が示唆された。また、C. perfringensのPlsA, PlsRと対応するドメイン間の相同性が41~60%を示すタンパク質をコードする遺伝子がK-4株ゲノム上に見られた。この遺伝子はC. perfringensとは異なり、ゲノム上に単一遺伝子として座乗していた。これをEnterococcus faecalis K-4株の推定plsAとし、Pls非生産性の大腸菌で異種発現させることでタンパク質のビニルエーテル結合形成能の評価を試みた。K-4株推定plsAで形質転換した大腸菌は、好気培養と嫌気培養によらずターゲットタンパク質を発現した。この形質転換大腸菌ら抽出した脂質をHPLC解析した結果、酸加水分解後にアルデヒドが検出できた。一方で、対照とした非形質転換大腸菌脂質からはアルデヒドが検出できなかった。大腸菌はPls非生産であることが分かっており、BLAST検索ではC. perfringensのPlsA, PlsRと相同性を示す配列がヒットしなかった。このことから、K-4株推定plsAはビニルエーテル結合を形成するタンパク質をコードしており、大腸菌でも有効に機能するため、大腸菌にPls生産能を付与できたと考えられた。さらに、K-4株におけるPls生産の最適培養条件を検討し、培地成分がPls生産量に大きな影響を与えることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は各菌株が生産するPls種を調べ、疾患の進行抑制により効果的なPls生産株の探索と微生物由来Plsの有効について検討する。また、培地成分がPls生産量に影響を与える可能性が見られたことから、Pls大量生産に向けてPls生産に最適な培地成分の検討を行う。 今年度生産に成功したPlsはエタノールアミン型と考えられるが、次年度はコリン型Plsの生産も検討し、一方で様々なPls種を生産し、疾病ごとに最適なPls種の選択を行う予定である。
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