研究課題/領域番号 |
22K19318
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
高田 英昭 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (20455207)
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研究分担者 |
横田 一道 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (50633179)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 染色体 / ポアデバイス / 染色体異常 / 染色体異常検出 |
研究開始時の研究の概要 |
遺伝情報の担体である染色体の構造や数の異常は、癌をはじめとする多くの疾患を引き起こす原因となる。染色体異常の検出は、スライドガラス上に作製した染色体標本を顕微鏡下で観察することが一般的であるが、標本作製に時間がかかる、画像解析が煩雑、自動化が困難、観察後の試料の再利用が困難といった多くの問題点が挙げられる。これらの問題を克服するため、本研究では、DNA塩基配列の決定やウィルス・細菌の識別に用いられてきたポアデバイスを染色体に適用し、染色体の異常を高感度かつ迅速に検出する新規デバイスを開発することを目的とする。これにより、染色体研究や医療分野における新たな染色体解析のアプローチを創出する。
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研究実績の概要 |
本研究ではマイクロポアを用いた染色体の構造情報の高速・高感度取得を実現し、染色体異常を検出する新規デバイスを開発することを目的とする。本年度は、ヒト培養細胞からの染色体単離方法とデバイスのポアサイズについて、染色体構造評価に適した条件の検討を実施した。条件検討には染色体異常がみられないヒト正常細胞(hTERT-RPE株)から単離した染色体を用い、染色体がポアを通過した際に観測される電流阻害波形のピーク幅と高さで構造を評価した。染色体単離方法については、ポリアミンバッファー法、クエン酸法、へキシレングリコール法、メタノール・酢酸法、硫酸マグネシウム法により調製した染色体をポアデバイスで解析し、波形パターンを比較した。その結果、メタノール・酢酸法の染色体以外では染色体の構造を反映していると考えられる多数の波形パターンが観測され、そのパターンに大きな差はみられなかった。このため、一般的な染色単離方法であるポリアミンバッファーを用いた手法で調製した染色体を解析に用いることとした。ポアサイズについては、ヒト染色体のサイズが数マイクロメートルであるため、ポアの目詰まりを抑えるために直径10マイクロメートルのポアを用いた解析を実施した。しかしながら、10マイクロメートルのポアサイズでは、ポア通過時の染色体の方向がランダムであるため波形パターンが複雑になり、染色体構造の評価に十分な精度が得られなかった。このため、ポアのサイズをさらに小さくすることでポア通過時の染色体の方向を制限するなど、デバイスの仕様を再設計する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポアデバイスを用いて染色体構造を評価するために、染色体異常が見られないヒト培養細胞(hTERT-RPE1株)から単離した染色体を用いて解析条件の検討を進めている。染色体の単離およびポアデバイス解析に用いる溶液について、ポリアミンバッファー、クエン酸溶液、へキシレングリコールバッファー、メタノール・酢酸溶液、硫酸マグネシウムバッファーの比較を行った結果、メタノール・酢酸溶液以外は解析可能であることが判明した。このため、一般的な染色体単離方法であり、単離後も形態を維持して長期保存が可能なポリアミンバッファーを本解析で用いることとした。ポアを通過した染色体構造は、電流阻害波形のピーク幅と高さで評価した。細胞から単離した染色体を、直径10マイクロメートル、厚さ0.05マイクロメートルのポアデバイスを用いて解析すると、ポアを通過した染色体の形態を反映した多数の波形が観測された。しかしながら、波形パターンが複雑であり、得られた波形からポアを通過した染色体の種別(1番~22番染色体+X染色体)を同定することはできなかった。そこで、波形パターンで染色体の大きさを区別できるかを判断するため、セルソーターにより単離染色体をDNA含量が大きい染色体と小さい染色体に分画し、ソーティング後の染色体を解析した。その結果、染色体DNA含量の大小により異なる波形パターンが得られ、マイクロポアデバイスによる染色体構造評価の可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
マイクロポアデバイスを用いて染色体構造の解析において、ポアを通過した染色体の波形パターンが複雑で、波形から個々の染色体の識別が困難であることが課題である。パターンを複雑になる原因として、解析で用いているポアの直径は10マイクロメートルであるため、サイズが数マイクロメートルの染色体がランダムな方向でポアを通過することが挙げられる。ヒトの場合、染色体の幅は2マイクロメートル程度であるため、ポアの直径を2マイクロメートルに近づけることでポアを通過する染色体の方向を制限し、染色体末端からポアに突入した波形を取得することで波形パターンの単純化が期待できる。また、ポアの厚みを現在の0.05マイクロメートルから10マイクロメートルに増加することで、電流阻害へのポア通過時の染色体の大きさをより反映し通過時の染色体の向きの影響を抑えることも検討する。染色体の識別同定には、現行のピーク幅とピーク高さによる波形の評価では大きさが類似した染色体(例えば16番染色体と17番染色体)を区別することができない。そこで、染色体の長腕と短腕を識別可能な新たな評価軸を導入することも検討する。ポアデバイスを用いて染色体異常を検出可能かどうかについては、染色体異常を示す細胞(HeLa細胞などのがん細胞や白血病由来Kasumi-1細胞など)や染色体異常を誘導したhTERT-RPE1細胞から単離した染色体を解析し、正常な染色体の波形パターンと比較することで検証する。
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