研究課題/領域番号 |
22K19520
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分53:器官システム内科学およびその関連分野
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
内藤 尚道 金沢大学, 医学系, 教授 (30570676)
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研究分担者 |
射場 智大 金沢大学, 医学系, 助教 (10908205)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 血管恒常性 / 腸炎 / 炎症 / 血管内皮細胞 / 間質細胞 / 血管維持機構 / 腸管 |
研究開始時の研究の概要 |
腸の炎症はヒトが最も頻繁に経験する炎症反応の一つである。腸は外界とつながる臓器であり、常に様々な刺激にさらされ炎症反応が活発に生じる。また原因が解明されていない炎症性腸疾患も近年増加の一途をたどっている。本研究では、血管研究を通じて、腸の炎症制御機構を解明する。特に大腸と小腸における部位特異的炎症制御機構の解明を目的とする。血管を取り巻く微小環境により炎症が制御されている可能性が考えられ、血管に焦点を当てた解析を通じて腸管の炎症制御を規定する分子機序を解明できる可能性がある。本研究が実現すると、腸の炎症制御機構に関する概念を大きく転換でき、腸炎の新たな治療法の開発につながる可能性がある。
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研究実績の概要 |
腸炎はヒトが生活する中で、最も頻繁に経験する炎症反応の一つである。腸は外界とつながる臓器であり、常に様々な刺激にさらされ、細菌やウイルス、有害物質などの非自己による炎症反応が活発に生じる。これらの外的因子だけでなく、原因不明の炎症性腸疾患も増加の一途をたどっている。腸で生じる炎症は、腸管の部位特異性を認めることがあり、特に炎症性腸疾患では、病変部位は診断に重要であり、潰瘍性大腸炎は大腸で炎症を認め、クローン病では消化管全体で炎症が生じることが知られている。しかし、なぜこのような部位特異性を認めるか不明である。本研究では、血管研究を通じて、大腸と小腸における部位特異的炎症制御機構を解明することを目的として研究を行う。 今年度は小腸と大腸の血管、免疫細胞、間質細胞の分布パターンを組織学的に明らかにした。その上で、小腸と大腸で異なる表現型を示すノックアウトマウスの解析を行った。既に論文報告した血管内皮細胞特異的TAK1マウスでは、タモキシフェン投与後11日以内に、全てのマウスが消化管出血を伴って死に至る。本マウスでは小腸では粘膜出血、血管の破壊が生じるが、大腸では生じない。TAK1同様にA遺伝子(遺伝子名は伏せる)の血管内皮細胞特異的ノックアウトマウスではタモキシフェン投与後21日以内に、全てのマウスが同様の表現型で死に至ることが明らかになった。特に回腸末端部で症状が著明であった。したがって回腸末端部と、盲腸から続く大腸口側を解析対象として、野生型マウスとKOマウスで1細胞遺伝子発現解析による解析を行うこととした。それぞれから細胞を分離してFACS解析にて死細胞とdebrisを除去した。1細胞解析を行うためには、分離した細胞の生存率が高いことが重要であるが、KOマウスでは高い生存率の細胞を得ることができていない。現在細胞分離方法を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は1.野生型マウスを用いて、小腸と大腸の血管構造の相違を明らかにし、血管周囲の微小環境を構成する細胞の分布を、それぞれの部位で明らかにすること、2.小腸と大腸で異なる表現型を示すKOマウスを解析して、とくに組織学的な特徴を明らかにすること、3.野生型マウスとKOマウスの腸管の1細胞遺伝子発現解析に取り組むこと、以上の3つの研究に取り組む計画であった。1と2に関しては、おおむね計画通り進展している。血管内皮細胞、周皮細胞、マクロファージ、単球細胞、T細胞などの局在を明らかにして、血管の機能評価をデキストランで行った。さらにKOマウスは生存曲線を明らかにし、腸管と肝臓を含め全身の臓器の血管構造を免疫染色で明らかにした。既に報告しているTAK1KOマウスと比較すると、出血と血管の崩壊が出現するスピードが遅く、遺伝子AのKOマウスは肝臓ではほとんど血管異常を認めないことが明らかになった。一方で、3の1細胞解析が達成できていない。1細胞解析の技術、データ解析に関しては、これまで十分な実績があることから、細胞分離法の確立が重要である。これまで細胞分離に関しても、多くの臓器で実現していることから、条件検討を行うことで達成できると考えている。腸管では、他の組織と異なり、残渣の処理も重要な課題であり、その対策も確立した。以上を踏まえて、本研究はやや遅れていると判断したが、細胞分離法が確立すれば次年度は研究が推進すると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1細胞遺伝子発現解析実験が遅れているが、研究計画の推進には、大きな問題ではないと考えている。そのため令和5年度も、当初の計画通り実験を行い研究を推進する。すなわち、シングルセル解析で小腸と大腸の全細胞の遺伝子発現特性を明らかにし、さらに血管内皮細胞特異的KOマウスで、血管解析に焦点を当て、周囲との相互作用を解析する。その上で、バイオインフォマティクス解析で得られた情報を、生体に還元する事をめざす。その上で、KOマウス及び炎症モデルを用いて、標的因子の機能解析に継続して取り組む。具体的には、免疫染色の結果とシングルセルデータを合わせて、小腸と大腸を構成する全細胞の特性を明らかにする。またシングルセルデータを用いて、細胞分布パターンの解析、遺伝子発現データ解析、細胞間相互作用解析、細胞内情報伝達解析、細胞内代謝解析等のバイオインフォマティクス解析をおこなう。得られたデータを、免疫染色とFACSを用いて生体で検証し、さらに野生型マウスと比べKOマウスで変化している細胞間因子を抽出する。また小腸と大腸で異なる因子を抽出する。とくに炎症時に血管内皮細胞に対して働く細胞を絞り込むみ、レセプター・リガンドペアを明らかにする。同定したシグナルをin vitro共培養系で解析し、さらに生体では阻害剤または促進剤、中和抗体などを用いて検証する。小腸特異的、もしくは大腸特異的な炎症制御機構を明らかにすることで、部位特異的な炎症制御を目指し、疾患病態の発症機序の解明を目指す。
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