研究課題/領域番号 |
23H00438
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分57:口腔科学およびその関連分野
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
石丸 直澄 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 教授 (60314879)
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研究分担者 |
牛尾 綾 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 講師 (40823836)
青田 桂子 徳島大学, 病院, 准教授 (70437391)
常松 貴明 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学域), 准教授 (70726752)
大塚 邦紘 徳島大学, 病院, 助教 (90847865)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
46,930千円 (直接経費: 36,100千円、間接経費: 10,830千円)
2024年度: 10,790千円 (直接経費: 8,300千円、間接経費: 2,490千円)
2023年度: 14,560千円 (直接経費: 11,200千円、間接経費: 3,360千円)
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キーワード | 自己免疫疾患 / 免疫チューニング分子 / シェーグレン症候群 / T細胞 / プロテオミクス解析 / 疾患モデル |
研究開始時の研究の概要 |
複雑な病態を有する難治性の自己免疫疾患の発症機序の一つにT細胞の活性化機構の異常が知られている。免疫制御機構を中心として多くの報告がなされてきたが、臨床的展開に至っていない。また、免疫チェックポイント分子を標的としたT細胞を介したがん治療では意義あるものの、自己免疫疾患の治療法への応用は不十分である。申請者はこれまでにシェーグレン症候群の病態解明と根本的治療法の開発を進める中で、T細胞の活性化抑制機構を調節・同調する免疫チューニング分子を介した新たな分子機序を着想した。本研究では、最先端の分子生物学的・免疫病理学的手法によりT細胞における病態に対応した新たな免疫チューニング分子の探索を進める。
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研究実績の概要 |
我々の免疫システムでは、様々な免疫担当細胞が多様な機能によって全身臓器の免疫学的恒常性を維持している。一方で、免疫システムの破綻は、感染症、アレルギー疾患、自己免疫疾患などの免疫疾患の発症につながり、多くの患者が治療困難な免疫難病に苦しむことになる。これまでに唾液腺などの外分泌腺を標的とする自己免疫疾患であるシェーグレン症候群(Sjogren’s syndrome: SS)の病態解明と根本的治療法の開発を目指した研究を推進してきた。その中で、免疫チェックポイント分子の新たな制御機構を介したSSの治療法の可能性を見出した。PD-1を中心としてT細胞の抑制性分子も関して、それらの調節機序は複雑であることから、多くの未解決課題が存在している。本申請研究では、最先端の分子生物学的・免疫病理学的手法にてT細胞におけるSS病態に対応した免疫チューニング分子の探索を進めるとともに、その詳細な分子機構に基づいた治療戦略を打ち立てることによって、これまで実現できなかった自己免疫疾患の根本的治療法の開発を目指す。 R5年度はSSモデルマウスのCD4陽性T細胞における免疫チューニング分子を探索するために、網羅的なプロテオミクス解析を実施し、自己免疫病変の強さに対応した10分子の候補を挙げ、その中からT細胞での発現、機能など詳細に検討した結果、Trat-1分子に着目した。モデルマウスの脾臓、リンパ節、末梢血におけるT細胞での発現を確認したところ、対照マウスに比較してモデルマウスのT細胞では有意にTrat-1の発現が低下していることが判明した。特に、病態が発症する4週から8週ではTrat-1の発現低下が確認されたが、10週齢以降になると対照マウスとの差が見られなくなったことから、Trat-1は病態発症時期に抑制的に働くチューニング分子の可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R5年度では、本研究の第一歩となるSS疾患モデルを用いてT細胞における免疫チューニング分子をプロテオミクス解析にて網羅的にタンパクレベルで探索を実施し、キー分子の絞り込みを行った。SS疾患モデル(NFS/sldマウス)の唾液腺・涙腺組織の病理組織評価において病変の強弱(浸潤リンパ球数のばらつき)が存在することが知られている。モデルマウスの個々の病変に対応した末梢T細胞(脾臓から採取)におけるプロテオミクスで得られたデータならびに病理組織データを融合し、バイオインフォマティクス技術を応用することによって、病変が強くなると減弱する分子群を同定するとともに、T細胞シグナルに起因する制御機序を想定し、候補遺伝子を絞り込んだ。さらに、SS疾患モデルマウスの末梢血中のT細胞分画における候補分子の発現を経時的に検討し、対象群に比較して有意に低下する分子としてTrat-1を同定した。 Trat-1の末梢血T細胞における発現は、4週齢、8週齢ではSS疾患モデルで有意に低下していたが、10週齢以降では対象群と差がみられなかったことから、Trat-1は病態の発症に関与している可能性が示された。また、Trat-1遺伝子ノックアウトマウスの作製を進め、F2以降の解析を進めている。これらの成果を日本シェーグレン症候群学会、日本免疫学会、日本病理学会などで発表をしている。さらに、今年度はSS疾患モデルにおける肺病変がCD4依存性の濾胞B細胞の集簇により成立していることが明らかになり(Front Immunol 2023)、T細胞におけるTrat-1の発現との関与も示唆されている。以上のように、概ね計画通りに研究が進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
自己免疫疾患の病態は、免疫システムと標的臓器との間で極めて複雑な病態機序が存在していることから、根本的治療法の開発が進んでいない。特に、自己免疫疾患の中で、標的臓器スペクトルが最も広いといわれているSSの病態は唾液腺・涙腺などの外分泌腺だけでなく多臓器に病変が生じ、多彩な症状に患者が苦しめられることが知られている。SSの病態には、自己抗原の認識に始まるT細胞の自己反応性の獲得が発症の起点となる。さらに、他の免疫担当細胞による異常な免疫反応、標的臓器での免疫寛容システムの破綻、様々な環境因子および遺伝因子などが複雑に絡み合いながら、慢性炎症が進展していく。自己抗原に対する過剰なT細胞応答が持続的に継続することが自己反応性の獲得につながることが知られている。免疫チェックポント分子の存在が広く知られている一方で、それらの分子における複雑で未知の制御機構が存在していることが次々と明らかになってきた。T細胞の自己反応性獲得に免疫チェックポイント分子を中心とした免疫制御機構が適切に調節されていれば、自己免疫疾患は発症しないはずである。 本研究ではT細胞における病態に対応した免疫チューニング分子群の探索し、同定された分子群の中から、自己免疫病変形成の分子機序につながる分子を絞り込み、免疫系における生命現象の動作機序がどのようにして異常な自己免疫反応へと変貌するのかを突き止める予定である。さらに、明らかにした制御機序に基づいた免疫チューニング分子を標的にした自己免疫疾患の新たな治療法の可能性を模索する。最終的に、実際の患者サンプルを用いた臨床応用研究に着手するともに、SS以外の免疫難病への応用も検討する予定である。
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