研究概要 |
ラットを用い, うつ病, 不安, 痴呆の病態モデルを工夫しながら抗うつ薬, 抗不安薬, 抗痴呆薬の作用機序をとくに中枢伝達物質との関連から明らかにせんとした. 1.ラットのmuricideは抗うつ薬により特異的に抑制されるが, 嗅球摘出(OB)ラットではmuricide発現に伴って外側視床下部(LH), 視床下部腹内側核(VMH), 乳頭体(MB), 扁桃体内側核(AME)のノルアドレナリン(NA)含量が有意に増加し, NA代謝回転は低下した. 一方, LH, MB, 前頭葉皮質ではセロトニン(5-HT)代謝回転も有意に減少した. 中脳縫線核破壊(Raphe)ラットでは脳内5-HTとその代謝物は著明に減少したが, LH, VMH, NA量はmuricide発現とともに増加した. 側坐核破壊(Acc)ラットではmuricide発現とともにLH, VMH, MBのNA量は有意に増加, LHの5-HT量は減少, MBの5-HT代謝回転も減少した. これらの変化は抗うつ薬や電撃ショック処置によるmuricide抑制とともに, ほぼ正常化された. 2.OBラットのAME内にNAを直接微量注入するとmuricideが抑制されるが, この作用はneuropeptideY(NPY)の併用により増強された. またOBラットではmuricide発現に伴って, LH, VMHおよび扁桃体各部のNPY量が著明に増強し, 抗うつ薬によるmuricide抑制とともに正常に復した. 3.muricide発現に伴ってOBラットでは扁桃体, Rapheラットでは視床下部の5-HT_2受容体が有意に増加するが, 5-HT_1受容体は不変であること, またOBラットではLH, VMHのNA性α_2受容体が減少していることもわかった. 4.OBと扁桃体中心核(ACE)は抗不安薬の抗コンフリクト作用に重要な脳部位であるが, ベンゾジアゼピン(BDZ)の作用機序は両部位で大いに異なり, さらに両部位でBDZ受容体のサブタイプの分布が異なることもわかった. 5.抗痴呆薬の作用評価に有用なラットの記憶障害モデルを工夫し, その障害程度を測定できる学習実験法を確立した.
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