研究概要 |
複雑な構造を有する生物活性生体成分及び薬物代謝産物の立体化学を明らかにするため270MHzのFT-NMRスペクトロメトリーを応用した下記の共同プロジェクトを行なった. アルカロイドの代謝についても検討した. 1.ストリキニーネについてラットにおけるin vivo代謝について検討し5種の尿中代謝物の構造を確認し, スコポラミンについてはラットおよびウサギにおける4種の尿中代謝物の構造を決定した. ストリキニーネ並びにスコポラミンについて定量法を確立し, in vitroにおける代謝物を定量し, その生成に及ぼす薬物代謝酵素誘導剤の影響を明確にした. 2.市販茶3種, 中国産大黄4種, 邦産ブナ科植物6種, 台湾産薬用植物12種についてタンニン類の検索を行ない70数種の新化合物を含む120種の化合物の単離構造解明を行なった. 3.海産無脊椎動物中, 脂質含量の高い〓皮動物に注目し, オニヒトデより6種のセレブロシド型, 2種のジヘキソシド型新スフインゴ糖脂質の単離に成功し, 化学的及びFT-NMRを中心とした機器分析的知見から立体構造を明らかにした. これら糖脂質のアグリコンに相当するフィトスフインゴシン塩基の立体化学は不斉合成した光学活性体とのFT-NMR等の比較により決定した. 4.血小板活性化因子(PAF)の酵素化学的手法による不斉合成研究を検討し, メソ化合物を基質とする酵素不斉加水分解反応を利用した光学活性2,3-isopropylidene-sn-glycerolの合成及び, プロキラルなケトンを基質とする微生物還元反応を利用した(+)-及び(-)-batylalcoholの合成に成功した. これらは重要なPAF合成中間体である. 5.FT-NMRを用いて化学修飾リゾチームの1H-NMR及びTrp残基のインドールN-1プロトンの重水素交換速度を測定した. その結果, 修飾による構造変化は大きくはないが分子全体に及び, また重水素交換は局部的構造のゆらぎを経由し起こり, ゆらぎの変化は修飾による構造変化と対応している事が判明した.
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