研究概要 |
本研究は, 楽器用木材の音響的性質を, 化学修飾によって改良することを目的とする. 改良点は, 1.音響的性質の向上, 2.湿度変化による音響的性質の安定化である. この目的のため, アセチル化およびホルマール化処理を検討し, 次の結果を得た. 1.アセチル化処理には, 内部摩擦の減少, 水分による寸法変化の抑制, 紫外線による変色防止効果があっか. ホルマール化処理には, 内部摩擦の減少, 比較的ヤング率の増大, 寸法変化の抑制等の効果があったが, 欠点として, 材色変化, 強度低下が認められた. いずれの処理によっても, 木材は響きやすくなり, 音響的性質は改良されたと考えられる. 2.両処理によって, 力が作用している状態で湿度が変化した場合の木材の変形は著しく抑制された. アセチル化処理材を, ピアノピン板部分に用いた弦保持部モデルについての応用実験の結果から, 湿度変化に伴うピンルーズや調律周波数の変化は著しく抑制されることが明らかになった. アセチル化処理は, 楽器部材の中で力を保持する部位への処理として有効であると考えられる. 湿度変化によって木材の音響的性質の中で, 内部摩擦に関係する量が著しく影響を受け, 特に湿度変化の初期にそれが著しいことが明らかになった. 両処理によって, 湿度変化による音響的性質の変化は, 著しく抑制され音響的性質を安定することができた. 応用として, アセチル化処理した木材を振動板に用したスピーカーの開発とギターの試作を行なったが, 前者に対しては, 良好な特性をもつものが, 後者に対しては, 塗装を必要とせず, 音色の安定なものが得られた. 以上の結果から, アセチル化やホルマール化処理は, 楽器の部材の改良に有効であることが示された. 特に, アセチル化処理は, 力を受けもつ部材への処理に, ホルマール化処理は, 響板への処理に有効であろう.
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