研究概要 |
本研究は, 混合原子価状態の基礎的研究の一環として, 1'と1'''の位置に異なった置換基を持ったビフェロセン誘導体について, その一電子酸化物の原子価状態をメスバウアー分光法を用いて調べることを目的としている. まず, モノハロビフェロセンの合成をいろいろと試みたが, 成功しなかった. 各種ビフェロセン誘導体(1'-ブロモー1'''-ヨードビフェロセン, 1'-クロロー1'''-ヨードビフェロセン, 1'-モノエチルビフェロセン, 1'-モノプロピルビフェロセンなど)の合成を行い, その一電子酸化物の原子価状態を調べた. 1',1'''-ジョードビフェロセン, 1',1'''-ジブロモビフェロセンの一電子酸化物は平均原子価状態を示すことが知られているが, ブロムとヨード, クロルとヨードを持ったビフェロセニウムイオンも, 同様に, 平均原子価状態を示した. 原子価状態を支配する因子として, ビフェロセニウムイオンの構造, 結晶状態などがあるが, この場合, 結晶状態が大きく影響しているように思われる. すなわち, 1',1'''-ジクロロビフェロセンの一電子酸化物は, ジブロモビフェロセンやジョードビフェロセンの一電子酸化物とは異なった結晶構造を持ち, 混在原子価状態しか示さない. 本研究で合成されたジハロビフェロセンの一電子酸化物は, すべて, ジョードビフェロセンと類似の結晶構造を持ち, 平均原子価状態を示した. 従って, ジハロビフェロセンの一電子酸化物の場合, ハロゲンの置換基効果よりも, むしろ結晶構造によって原子価状態が決っているように見える. 一方, モノアルキルビフェロセンの一電子酸化物は, 無置換のビフェロセニウム塩と同じく, 低温から常温まで混在原子価状態を示し, 期待された原子価状態の温度依存性を示さなかった. アルキル基一個では, 置換基効果が小さすぎるためと思われる. 今後の展開として, アルキルハロビフェロセンの一電子酸化物の原子価状態を調べることが必要である.
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