研究概要 |
人の末梢神経刺激による興奮, 伝導を腰椎レベルで根電位として記録できる. この電位は多相性であるが, 誘発筋電図を同時記録することにより根電位の諸要素を識別・同定して臨床的応用をこころみた. 対象は正常者5例と腰部椎間板ヘルニア10例, 腰部脊柱管狭窄症5例である. 脛骨神経あるいは腓骨神経を皮膚表面電極にて刺激し, 腰部硬膜外腔より記録した. 腰部根電位は潜時の短い(約9ms)第一電位と潜時の長い(約13ms)第二電位が記録され, 同時記録した誘発筋電図ではM波とH反射が記録された. これらの4種類の電位は刺激の強度により, 増加減少がみられたが, 刺激の強度と電位の振巾を調べたところ, 第一電位はM波の閾値以下ではH反射と増加傾向が一致しており, 直線の相関があり, 相関係数は0.962と相関が高かった. 刺激の強度がM波の閾値以上では, 第一電位の増加傾向はM波のそれと同じであり, 最大上刺激もほぼ同じであった. 第一電位とM波の振巾は直線の相関関係にあり, 相関関係は0.998と相関が高かった. これらの事実より刺激の強度をM波の閾値に選ぶと第一電位はI群線維の興奮をみていることになり, M波の最大上刺激に選ぶと最大上刺激に達したI群線維の興奮に運動線維を逆行性に伝導してきた電位が加算されたものをみていることになる. つまりM波の閾値では後根を, M波の最大上刺激では前根を観察できることがわかった. 臨床例の伝導障害については, 1)陽性化2)多相性3)低振巾について検討したところ, 15例中14例に何等かの伝導障害がみられた. 陽性化は15例中7例に, 多相性変化は15例中7例にそして低振巾は15例中12例にみられた. 本法はM波の出現の有無が識別の重要な点であり, 臨床上繁雑さはなく比較的容易に後根, 前根を分けて伝導状態を調べることが可能である. 臨床に実際に応用してみると15例中14例に伝導障害を認め, 検査として有用であることがわかった.
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