研究概要 |
1.動物実験:脛骨神経刺激による腰部根電位では刺激を強くしていくと、潜時約1msに単峰性の電位(第1電位)が出現し、さらに強度を増すと第1電位にひきつづいて棘波(第2電位)が出現して2峰性となり、さらに潜時約2msになだらかな電位(第3電位)が記録できた。第3電位は刺激の条件(強さ,頻度)をかえると減少,消失することから、脊髄の単シナプスを介する前根の活動電位であり、前根と後根に分離して記録することにより第1電位は前根と後根の活動電位を両方含み、第2電位は主として後根由来の電位であった。次に刺激記録間距離を延長すると前根よりも後根の電位の潜時が短かく、闘値が低いということがわかった。従って刺激記録間距離を延長することにより、後根の電位を識別できることがわかった。 2.臨床応用:人の末梢神経刺激による興奮,伝導を腰椎レベルで根電位として記録できる。この電位は多相性で、知覚性神経・運動神経線維の幾つかの要素を含む。正常例における根電位の諸要素を下腿三頭筋の誘発筋電図(M波・H反射)を同時に記録することにより、識別の基準として利用し、分析をこころみ次のようなことがわかった。M波:H反射共に誘発する刺激強度で潜時の異なる三種類の陰性棘波が認められた。最短潜時(約9ms)の第1波はH反射の闘値以下で出現し、その振幅は刺激を強くするに従い増大した。第1波の直後に出現する第2波はM波とほぼ同じかあるいはわずかに低い闘値をもち、振幅の増大はM波のそれとよく一致していた。第3波(潜時約18ms)はH反射と同じ闘値をもち、振幅も平行関係にあった。これらのことより第1波は求心性I群線維発射,第2波は逆行性運動線維発射,第3波は単シナプス性に興奮した運動線維の遠心性発射と結論した。従って刺激強度をM波の出現の有無を適当に調節することにより、前根および後根の伝導状態を個別に調べることができる。
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