研究概要 |
顎関節症患者の中には咬合異常が原因で咀嚼筋群のみならず頸筋群にも疼痛を訴えるものがみられる. 咬合に直接関与しているのは咀嚼筋と考えられるが頸筋にも疼痛が発症する原因については, 未だ不明な点が多い. 我々は特に最大の側頸筋である胸鎖乳突筋の疼痛に着目し, 研究を進め, 以下の成果を得た. すなわち, 臨床的には, アンテリオール, ガイダンスの修正による咬合治療により, 胸鎖乳突筋の疼痛症状の治癒がみられた症例について報告し, 顎関節症治療におけるひとつの治療指針を示した. 一方では, 胸鎖乳突筋の疼痛は筋中央部に比較して頭蓋側の筋停止部に好発することに着目し, 筋の部位による機能の差異を追究した. これにより胸鎖乳突筋疼痛発症のメカニズムの解明を行うべく, 胸鎖乳突筋の系統解剖学的観察, および咬合機能時の胸鎖乳突筋の活動様相の筋電図学的検討を行なった. その結果, 解剖学的観察からは, 筋の分岐については個人差が大きいことを確認した. また, 筋電図学的検討によって, 咬合機能と胸鎖乳突筋の, 特に, 筋停止部が密接な関係をもっていることが解明された. すなわち, 咬合機能時に胸鎖乳突筋停止部と筋中央部に比較して大きな筋活動を示し, その活動量は咬合力と強い正の相関を持っていた. また筋電図のパワースペクトラムの面から検討したところ, 筋停止部では低周波帯域成分が多く, また低周波帯域に特徴的なピークが認められた. このことにより, 筋停止部と中央部では筋電図に量的および質的差異が認められることが明らかとなり, 咬合機能時の胸鎖乳突筋の筋停止部主体の活動は伸張反射弓が強く関与し, 咬合機能時に適切な頭位を保持する機能であることが確認された. 以上により, 本研究の目的である咬合異常に起因する頸筋疼痛の発症メカニズムの解明に大きな成果が得られた.
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