研究概要 |
本研究では, 日本語と英語の間の翻訳にみられる誤訳・難解訳のデータを, 言語学・心理学・情報処理の関連分野から分析し, 異言語間の語彙体系と文法体系・意味体系の相違による誤訳・難解訳の認知プロセスの解明を図った. 本研究では, 特に, 直訳と意訳の認知プロセス, 誤訳・直訳・意訳の評価基準, 翻訳の基盤となる日・英語の言語的フレームの違いなどの問題を考察しながら, 次の手順によって, 翻訳の認知プロセスの明確化を試みた:1.語彙レベルから文法レベルの記号系の対応関係, 2.二言語間の認知枠の違いとズレ, 3.翻訳にかかわる心理的な要因, 4.情報処理の視点からみた記号系の変換プロセス, 5.文法と語用論の双方の観点からみた日・英語の形成レベルと意味レベルの対応関係. これまでの翻訳のプロセスに関する研究は, 主に文学的なテクストの翻訳の問題が中心となっており, 日常言語の談話や会話分をも含む, 広い意味での口語的なテクスト一般の翻訳のプロセスの体系的な研究は, 本格的にはなされていない. 本研究の意義は, 言語学・心理学・情報科学の関連分野の総合的な観点から, 以上の1から5の側面に関する翻訳プロセスの研究を通して, 記号処理にかかれる人間の認知のメカニズムの一端を明らかにした点にある.
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