研究概要 |
ブレオマイシンの制癌作用の第一次作用点はDNA鎖の切断と考えられるが, その作用発現には補欠因子として鉄やマンガンなどの遷移金属イオンを要求している. ブレオマイシンは鉄(II)と分子状酸素, あるいは鉄(III)と過酸化水素の存在下, 強力にDNA鎖を切断し, そしてこのDNA分解はグアニンーピリミジン, 特にグアニンーシトシン(5'→3')部位に選択的であることを明らかにした. 金属ブレオマイシンのDNA切断に及ぼすDNA修飾の影響や酵素DNアーゼによるフットプリンティングの実験結果から, ブレオマイシン遷移金属錯体はB型DNAの小さい溝において, グアニンを含む約3塩基対に結合することが判明した. 種々のDNAポリマーに対するDNA結合定数の評価は, ブレオマイシンの塩基配列選択的な結合にはグアニンの2位のアミノ基が重要な役割をはたしていることを強く示唆している. また, ブレオマイシン分子中の末端アミノ部やグロースーマンノース糖鎖部に比べて, 金属の違いは切断塩基部位に若干の摂動を与えた. 特に, ブレオマイシンーバナジウムー過酸化水素系は明らかに対応する鉄錯体系では起こりにくいグアニンーアデニン(5'→3')部位での切断ガグアニンーシトシン部位と共に見られた. 本研究で得られた知見をもとに, 金属ブレオマイシンによる選択的なDNA塩基認識の分子機構を提案した. すなわち, ブレオマイシンは金属錯体の生成によってコンパクトなU字型構造をとり, 金属結合部位とDNA相互作用部位とが空間的に近接した分子配置を形成する. ビチアゾールーカルボキサミド部位のDNA小溝への結合とそれに伴うグアニン塩基のアミノ基周辺との間の水素結合・立体的適合によって選択的なグアニンーピリミジン塩基部位確認を達成している. このような相互作用様式は, コンピューターグラフィックスからも支持された.
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