研究概要 |
本研究の目的は, パルスレーザーにより物質内部にパルス的音波を作り, その音波によって生じる過渡的電圧の時間的変化を測定することによって, 非破壊的に物質内部の空間電荷の深さ方向の分布を調べると共に, エキソ電子放射の機構, 特に空間電荷分布と電子放射の関係を調べることにある. このため, (1)既設の窒素レーザーを用いて, パルス的音波を作り出し, その波形を観測することによって, 物質内部の情報を引き出すと共に, (2)エキソ電子の放射効率の測定やエキソ電子の運動エネルギーの分布と表面ポテンシャルの同時測定を行い, 試料内部の空間電荷分布のエキソ電子放射機構に及ぼす影響について調べ, また(3)そのことをモンテカルロ計算の結果と比較することにより, 理論的に物質内部の空間電荷分布を導出し, パルスレーザー法による実験結果との比較検討を行うことを目指した. このうち, (1)については, 既設の高真空槽内に置かれた試料に, 500kW, 5nsの窒素レーザー光を照射し, その結果生じる電圧波形を, 高速仕様のシンクロスコープで写真撮影できるように測定系を調整した. (2)については, KGL:Tl結晶について, 光刺激エキソ電子の放射効率スペクトルの測定を行うと共に, ケルビン法による表面電位測定とエキソ電子の運動エネルギースペクトルとの同時測定を行った. その結果, 室温においては, 試料内部の空間電荷がエキソ電子の放射機構に多大の影響を与えていることが明白になった. (3)については, 実験結果を説明するためには, 試料内部の空間電荷は, 数100〓程度の領域で分布しているのが適切であることがモンテカルロ計算により示された. この計算結果は, 電荷分布が我々のレーザーパルス法の検出限界にあることを示唆しており, 今後電子放射と空間電荷の関係を調べるには, 多くの改良が必要である.
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