研究概要 |
本研究者はは膨張測定法と顕微鏡法により高炭素鋼の恒温変態について詳細に調べた結果, 次のような成果を得た. 1: Ms点近傍より少し高い温度で薄板状等温マルテンサイトが生成し, この等温マルテンサイト(TIM)がMs点近傍の恒温変態速度を加速することを明らかにした. 2: 423Kから473Kの温度範囲でミッドリブ付き下部ベイナイト(LBm)が生成することを見出した. このLBmの生成機構は, 最初に薄板状の等温マルテンサイトが生成し, それがリミッドリブとなりその周辺に下部ベイナイトが生成することによりLBmとなる. したがって, LBmはTIMと下部ベイナイトの複合体であることが明らかとなった. 3: 0.85〜1.87%炭素鋼の恒温変態生成物線図を作成し, 高炭素鋼の恒温変態の研究に大きな貢献をすることができた. 4: 1.80%炭素鋼の下部ベイナイトとマルテンサイトの結晶学的諸性質を調べた結果, 次のことが明らかとなった. マルテンサイトの現象論をこの鋼の下部ベイナイトに適用すると, 不均一変形面を従来用いられていた(112)bから(101)bに変えて用いた場合に, 非常に良い一致を示した. このように理論と実験結果の一致は, 下部ベイナイトがマルテンサイト的に生成することを示唆するものであり, これまで世界各国の研究者が議論して来た下部ベイナイトの生成機構に大きな曙光を与えるものである.
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