研究概要 |
増殖調節の鍵を握る重要な過程である細胞周期のGo期(増殖停止期)から増殖周期へ戻る過程に働く機能に関して温度感受性変異を有するtsJT60株(フィッシャーラット由来)の解析を行ない以下の成果を得た. 1.本機能は増殖周期内の進行には不必要であるが, Go期からの増殖誘導に際して9時間働いている. この間に高温にするとGo期から増殖周期へ入れない. 2.高温では増殖誘導に伴うタンパク合成上昇が起らないがRNA合成(主にr-RNA)は正常に上昇する. 3.血清による増殖誘導後に起る種々のmRNA(c-fos, c-myc, p53, オルニチン脱炭酸酵素など)の合成上昇は高温でも起る. 4.血清による増殖誘導刺激では高温で増殖周期へ入れないが, 表皮増殖因子を同時に添加すると増殖周期に入れる. インシュリン・トランスフェリンにも弱いながら同様の作用があるが, その他の増殖因子にはない. 5.DNAがんウィルスの感染により高温でもGo期から増殖周期へ入ることができる. 6.種々のがんウィルスの感染や, オンコジンを含むDNAのトランスフェクションによって得られたトランスホーム細胞は, 増殖に関して温度感受性を示す. なかでもアデノウィルスのEIB遺伝子(21kD)欠損株の感染によって得られたトランスホーム細胞は高温で著しく致命的である. 以上の様な性質を明らかにしたうえ, 更に変異遺伝子のクローニングを目指した. この目的のために, 高温致死性を示すアデノウィルストランスホームtsJT60細胞を用い, これにヒト遺伝子DNAまたはcDNAライブラリーをトランスフェクトし, 野性型表現型に復帰した30株をクローニングし, 各々ヒトDNA特異配列の有無を検討中である. また, tsJT60株と同じ表現型を有し, 異なる相補群に属する新たな変異株の分離を続行したが, 600を越える変異株細胞株をクローニングしたものの, 目的とする株を新たに得ることはできなかった.
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