研究概要 |
我々はまづアルツハイマー病, 老人性痴呆に似た記憶障害モデル動物の作成を試みた. これらの疾病ではマイネルト核の変性が見られる. マイネルト核は大脳皮質前頭葉, 頭頂葉などに線維を伸ばしているコリン作働性ニューロンである. このコリン作働性ニューロンの変性が記憶障害を引き起す原因であるかどうかを明らかにすると同時にコリン作働性シナプスの機能障害による異常動物での記憶障害様式を解析した. 〔I〕ムスカリン様アセチルコリン受容体の不可逆的失活剤であるPrBCM(prapylbenzilylcholine mustard)(を大脳皮質に微量注入し記憶への影響を検討した. 1)明暗弁別によるpassive avoidance法で次の知見を得た. i)前頭葉, 頭頂葉のコリン作働性シナプスは記憶に関与するが, 後頭葉はあまり関与しない. ii)記憶を獲得, 保持, 想起の3つの相に分けた場合, コリン作働性シナプスの障害が影響を与えるのは獲得相, 想起相で保持相には殆ど無影響であった. この知見よりコリン作働性ニューロン変性の結果として記憶障害の起ること及び記憶障害の様相が明らかとなった. 2)シャトル型能動時回避学習においてもPrBCMの前頭葉, 頭頂葉投与は記憶障害を引き起した. 〔II〕キノリン酸(QA)をラットの淡蒼球腹側部に注入し, 大脳皮質のコリン作働性ニューロンに変性が起るかどうかを検討した. QA注入2週間後に前頭葉, 頭頂葉のCAT(choline acetyltranfserase)活性は約30%減少した. この時の記憶能に障害の有無および障害の様相について現在研究中である. PrBCM投与とは若干異なる記憶障害の可能性が考えられる. 〔III〕QAによるコリン作働性ニューロンの変性を起す原因を検索中で, 現在迄の知見としてQAはグルタミン酸受容体(NMDAタイプ)に親和性を持っていることが明らかとなった.
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