研究概要 |
過年度に導入したトリチウムシミュレーターについて, その線量分布特性をさらに検討するとともに, トリチウム水のRBEを知るための種々の生物照射実験をおこなった. 線源部は1Ciと20Ciの^<137>Csより成り, コンピューター制御したくさび型鉄製フィルターと移動照射台を使って線量率を可変化しているのが, 本装置の特徴である. 移動照射台を使用する場合には, 半減期, 照射開始時の線量率と照射時間を入力し, これらの実験条件の実施の可否をコンピューターに判足させる. 可ならば設定条件のもとに, 照射を開始する. フィルター方式で線量率をかえる時には, 鉄の厚さがあまり厚くなると, エネリギースペクトルが変化する場合がある. 空間減衰方式あるいはフィルター減衰方式の選択は, 実験の目的に応じておこなえるようになっている. このようなシミュレーターを用いて, トリチウム水のRBEを, いくつかの生物指標に関して調べたり, またそのための予備実験をおこなった. まず特定座位法による生殖細胞突然変異のガンマー線線量率効果や, メダカを用いて検討した結果, 優性致死突然変異については線量率効果がみられなかったが, 特定座位突然変異ではこれが認められたので, この系はシミュレーターを用いる今後の研究に有用である. 一方, すでに基礎データを蓄積している系については, (1)ヒト末梢血リンパ球の染色体異常を指標とした場合, RBEは低線量率(0.1rad/min)で2.32±1.69であることが再確認された, (2)従来からのマウス小腸に加えて大腸についてのクリプト細胞死を指標とするトリチウム水のRBEを調べたところ, 小腸では1.6であるのに対して大腸では1.3となり, 消化管の部位によってクリプト幹細胞のRBEが異なることが判明した. V79細胞系からは, 一定線量を対数的減衰線量率照射すると致死効果が増えることも示された.
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