研究概要 |
木子幸三郎は明治30年代から昭和10年代にかけて活動した建築家で、当時における「和」と「洋」の建築に関する最良の知識を兼備していた点で注目される存在である。本研究は彼の図面や作品について東京都立中央図書館所蔵の資料を中心に考察したものである。 東京都立中央図書館木子文庫における木子幸三郎関連資料は、筆者の調査によれば、11,652点(図面や文書など10,550点、写真1,102点)である。これらの資料は原則として建物名を記した帙の中にいくつかの袋に分けて保存されている。しかし、その図面や写真には必ずしもタイトルや日付が付いているわけではなく、木子が設計したとは考えられない建物の図面も含まれている。そこで、まず図面1点ごとに建物名や室名、描かれた年代の特定・推定と並べかえを行った。 次に「和」と「洋」の関係が最も象徴的に現れると想像される住宅作品に限定して図面の性格や現存作品の確認・調査、関連資料を用いての分析・考察を行った。木子文庫の中にある住宅関係資料は図面5,118点、文書62点、写真487点、その他52点である。分析の結果、その中には少なくとも37件の住宅に関する資料が存在し、その図面の多くは木子がそれらの住宅の建設に際して作成したものであることがわかった(37件のうち少なくとも23件は幸三郎設計であることを確認)。施主の多くは皇族や富豪で、住宅の規模も大きい。木子はそれらの住宅を時間をかけて細部に至るまで設計していたと考えられる。その意匠は外部・内部とも「和」と「洋」を截然と分けるのが一般的である。しかし、彼は椅子・テーブルを用いる和風意匠の応接室をいくつか手がけており、そこでは木割を変え(すなわち伝統的なやり方を少し変更し)、天井高を高くしてこのような新しい生活様式に対応しようとしているのを見ることができる。
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