研究概要 |
清朝の成立とともに,滿洲族は統治民族となり,華夷の立場は逆転し,自らを華夷の世界の中心にすえ,内外諸民族に君臨することになり,さまざまな問題を生んだ。すなわち滿洲民族は清朝一代の間に自らの伝統的風習,言語,民族の個性を喪失して漢化するが,一方他民族および他国家との関係では,伝統的な華夷思想に裏打ちされた冊封体制により,東アジアの古際秩序の維持につとめ,他民族,他国家に服従を強制し,覊察もあるが武断もあるといった政策を実行した。かようにして清朝の版図は前古未曽有の規模に拡したが,しかしそうした政策が今日,チベット,ウイグル,モンゴルおよびその他の諸民族間に見られる民族主義的傾向の根源おなしている。この総合研究では清朝治下の諸民族と清朝の関係を全時代にわたり解明し,今日の問題の理解に資することを目的とした。 清朝は一代の間に広大な版図に拡大し,内部に多くの民族を含む多民族国家となった。また統治時期も17世紀初期から20世紀初期にまで及び,この間の民族問題と国際関係も多岐にわたっている。このため本研究を能率よく進めるために,研究分担者を(1)満州族,(2)闖蒙古族,(3)漢族,(4)清国内少数民族,(5)朝鮮族,(6)東南アジア諸民族,の6研究班に編成し,研究上の問題点を民族別,時期別に検討,整理することによって,清朝対外民族政策の実体や民族意識の推移を具体的に解明することにつとめた。そして各研究者はそれぞれの研究をふまえ,グル-プ別に研究会を開き,年2回,合同して研究会を開き,研究発表をおこなった。それらの成果が,このたび公刊した研究成果報告書『清朝治下の民族問題と国際関係』である。しかしながら三年間の研究活動によって,本研究の目的が達成されたというのではなく,ようやくその端緒を見出し得たに過ぎない。今後,本研究の成果の上に立って更に研究を深めたいと思っている。
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