研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
20H04664
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
平田 修造 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (20552227)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2021年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2020年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 室温りん光 / ソフトクリスタル / 蓄光 / 三重項失活 / 光散乱 / 三重項励起子 / ベイポクロミズム / 量子化学計算 / 非放射遷移 / ドーピング / 励起子拡散 / エラストマー |
研究開始時の研究の概要 |
弱い外部刺激により三重項励起子拡散能が大きく変化する結晶ホストに高効率長寿命室温りん光能を示すドーパントをドープした材料を構築し、蒸気に対して大きく長寿命室温りん光能が変化する材料を目指す。また共役分子液体/側鎖共役高分子エラストマーを用いて未延伸時には光散乱を示さないが延伸時にのみ大きく光散乱能を示す材料の構築を目指す。
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研究実績の概要 |
1秒に迫るもしくは超えるような長い発光寿命を有する室温りん光(長寿命室温りん光)は2015年から数多くの芳香族結晶からも報告されてきている。しかし分子結晶から室温蓄光を得るためには結晶内の強い分子間相互作用を用いることによる剛直性の追求が一般的であった。申請者は、長寿命室温りん光における三重項励起子の失活抑制には分子結晶の剛直性ではなく、三重項励起子拡散が抑制されるような三重項閉じ込め効果が鍵であると予想した。そして高解像顕微鏡を用いた三重項励起子拡散長の計測と量子化学計算による三重項励起子拡散能の推定を協働的に行うことで、三重項励起子拡散が抑制される結晶系では、分子間力が小さいような大幅に捻じれた共役分子系においても長寿命室温りん光が生じることを報告してきた。このことから、分子間力が小さいような系でも三重項閉じ込め効果が作用すれば長寿命室温りん光の発現が期待される。本研究では、長寿命室温りん光を示すソフトクリスタルの機能および長寿命室温りん光発現のメカニズムの明確化を研究の目的とする。 H8-binaphthyl骨格を有する分子固体系は、結晶と非晶を熱履歴で変化させることが可能であり、それに応じて長寿命室温りん光のスイッチングが可能である。これまで結晶時の長寿命室温りん光のメカニズムは不明であったが、合成の過程でH8に変換されないbinaphthylがわずかに存在し、それらの低いT1エネルギー状態が閉じ込められることで発現していることが予想された。実際に令和2年度開発した三重項無輻射遷移の計算法でT1が低いbinaphthylの三重項振動失活は十分に小さいことが裏付けられた。また三重項閉じ込めの論理に基づき、T1が低いゲストが力学的もしくは結晶内からの溶媒のリリースによって結晶内に取り込まれることで長寿命室温りん光を放射するような材料系を見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最低三重項励起状態(T1)と基底状態(S0)の間の室温での振動に基づく非放射遷移速度定数[knr(RT)]の推定に挑戦した。具体的には分子を真空中の分子間相互作用がない状況に置き、Herzberg-Teller効果の第2項を考慮した場合のT1-S0の振動スピン軌道相互作用およびフランクコンドン因子の積によりknr(RT)の計算を試みた。また、色素を固体ホスト中に分散した状態でのknr(RT)を各種光学計測を用いて実測した。以上を12種類以上のさまざまな分子において行い、この計算したknr(RT)が実測によるknr(RT)と優れた相関関係があることを見出した。 H8-binaphthyl分子の結晶ホストに同様の分子形状を示しより小さなT1エネルギーを有するbinaphthyl分子が良好にドープされることを見出した。このホストゲスト結晶は、異なる熱履歴で非晶と結晶の可逆的な制御が可能であり、結晶状態ではbinaphthylゲスト分子から長寿命室温りん光が放出されたが、非晶状態では長寿命室温りん光が生じないというソフトクリスタル機能が得られた。 T1エネルギーが低いピレン誘導体のT1 エネルギーが大きい分子結晶内への力学的なドーピングを試みた。いくつかの結晶では良好なドーピングが行われた結果、ピレン誘導体由来の赤色の長寿命室温りん光が確認された。さらにいくかのホスト結晶では加熱や蒸気による水分子のリリースとともに、ピレン誘導体が自動的にドーピングされることで、長寿命室温りん光機能が発現することが観測された。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に得られた長寿命室温りん光のソフトクリスタル機能のメカニズムを結論づける解析を以下の通り行う。 結晶と非晶の相転移に基づいてゲスト分子の長寿命室温りん光機能のスイッチが可能な材料に関しては、非晶時と結晶時の両者において長寿命りん光の温度依存性の計測と開発したknr(RT)の計算を行うことで、非晶時の長寿命室温りん光の消光および結晶時の長寿命室温りん光の発現メカニズムを明確にする。特に分子間のエネルギー移動に基づく三重項失活が周囲の結晶状態や剛直性にどのように影響を及ぼすのかの知見を得ることを意識する。 力学刺激や蒸気にさらすなどの外部刺激によって自己ドーピングが生じることで長寿命室温りん光が放射される材料系では、ドープされたゲストの三重項の強いトラップ効果によるものであることが期待される。それゆえ長寿命りん光の温度依存性の計測と開発したknr(RT)の計算を協働させることで実証する。 以上の結果のソフトクリスタル機能に関する論文を室温りん光の論文特集号に掲載するとともに、この3年間のソフトクリスタルの研究を通して得られた長寿命室温りん光発現の必要となる要素の知見を国際review雑誌に出版する。以上により、長寿命室温りん光機能を示すソフトクリスタルの学理を構築する。
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