研究概要 |
本研究課題は,室内灯で現象が起こり,フォトクロミック領域と非フォトクロミック領域からなるドメイン構造を有する単結晶フォトクロミズムを示す,我々が発見したある白金錯体に関して,その特異なフォトクロミズムの発現機構を明らかにすることを目的とした. これまで詳細に調べてきた白金錯体・一水塩結晶に加えて,無水塩結晶も同様に詳細に調べた.比較がしやすいように,同一条件でフォトクロミズムに伴う光誘起吸収帯の分光学的測定を行った.その結果,無水塩の光誘起吸収帯は,強度は3分の1程度で,熱的に不安定で約23倍の速さで減衰してしまうことが明らかとなった.これより,結晶水の存在がフォトクロミック状態の安定化,あるいは生成に非常に重要である」ことを示すことができた.塩化物一水塩,塩化物無水塩,臭化物無水塩について,配位子のアミン水素を軽水素から重水素に変えた結晶を,同一条件で分光学的に調べた.フォトクロミック状態の寿命(半減期)が,それぞれ15倍,1.3倍,4.8倍になり,重水素化の寄与が定量的に明らかになった,着色種(青色種)の候補となるイミン白金錯体を合成した.分光学的測定からは,非常に類似していること,巨大なモル吸光係数を持つ可能性があることがわかった.また,理論計算からアミンのN-H結合の伸長が指摘された.得られた知見を総合して,結晶水が受け手となる水素移動がフォトクロミズム発現のしくみである可能性が高いことを指摘できる段階に到達した.
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