研究概要 |
申請者はジイミン及びフラビン誘導体を配位子とするルテニウム-TPA(=tris(2-pyridylmethyl)amine)錯体の合成と物性測定を行ってきた。その過程で、これらのルテニウム錯体に関して、構造変化及び異性化反応における双安定性の発現を見いだした。それらはMLCT励起状態を経由して進行する反応であり、配位子間の立体制御が鍵となる。 複素環補酵素であるプテリンの誘導体、2-(N,N-dimethyl)-6,7-dimethylpterin(Hdmdmp)が4,5位で配位したルテニウム(II)-TPA錯体[Ru(dmdmp)(TPA)]^+において、アセトン溶液中でTPA配位子の1つのピリジン部位が光部分解離を起こした後に、構造変化を経由して溶媒であるアセトンが配位し、TPAのピリジンが再度配位することでプテリン配位子の180°擬回転による配位異性化が進行する現象が確認された。この異性化の機構について詳細に解明するため、光過程における量子収率の検討を行った。さらにアセトニトリル中で加熱することにより逆反応が起こることも見出し、この熱反応にに関する速度論的考察を行った。量子力学計算の結果とあわせて、反応機構を推定した。 Ru(TPA)ユニットに架橋配位子tpphzを導入した、単核錯体[Ru(TPA)(tpphz)](PF_6)_2を合成した。さらにこの錯体のtpphzの空いている2つの配位座にRu(bpy)_2もしくはPdCl_2を導入した新規非対称型ルテニウム(II)複核錯体、及びルテニウム-パラジウム-ヘテロ複核錯体を合成した。得られた三種類の錯体に対して、光や熱による反応性を検討したところ、これらの錯体は熱反応により、TPAのピリジン環の一つが解離し、空いた配位座に溶媒が配位した錯体を与えた。さらにこの錯体に光を照射すると、ほぼ100%の効率で元の錯体に戻ることが示された。したがって本研究により、熱および光という外部刺激により、完全に反応性の制御が可能な、新規双安定性金属錯体の創出に成功した。
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